はなもあらしも 道真編
終結
父に騙され、弓道の修行という名目で実は婿探しに出されていた事を知ったともえは、抗議の手紙を何十枚も書き連ねて実家の道場に送りつけた。
それから半年。
相も変わらず日輪道場で稽古に励むともえを、美琴が街へ連れ出した。
「ともえちゃん」
「どうしたの、美琴ちゃん。怖い顔して」
「どうしたのじゃないわ。せっかく道真さんと婚約したのに、毎日毎日二人とも道場で弓の修行ばかりじゃない。安芸のお父上の所へご挨拶に帰ったりしなくていいの?」
どうやらいつまでたっても日輪道場で着かず離れずの距離感のままでいるともえと道真に、美琴が業を煮やしたらしい。見ていてやきもきするのだという。
「でも、別に直接結婚するって宣言された訳じゃないし、道真君って何考えてるか分かりにくいっていうか……」
そう、ともえは一度も道真から『好き』だの『愛してる』だの『結婚しよう』だの、ごく一般的な恋人同士が交わすような言葉を頂戴していないのだ。
半年経った今でも道真のともえに対する態度は相変わらずだし、ともえも道真がそういった感じなのでどう接して良いか分からずにいた。おかげで修行に来た気持ちそのままに、毎日鍛錬に励んでいるという訳なのだが。
「聞いてみたらどうかしら?」
「聞く……って、何を?」
ビクリと驚く程体が反応したのが分かる。ごくりと唾を呑み込み、美琴の可憐な唇を見つめていると、
「道真さんに、ともえちゃんの事を実際どう思っているのかに決まっているわ。私は間違いなく、道真さんはともえちゃんの事が好きだと思うのだけど……」
美琴のその自信はどこからくるのか、当の本人にはさっぱりその感情を感じることが出来ないのだから困ったものである。
「ま、機会があったら聞いてみる」
「本当に呑気ねえ」
作品名:はなもあらしも 道真編 作家名:有馬音文