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はなもあらしも 道真編

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「お前寒いんだろ? 震えてるぞ」
「さささ、寒くないよっ! だだ大丈夫っ!」

 心臓が止まる! どうしてそんな急に近寄るのよっ!?

「嘘つけ、体が冷えてるじゃないか」
「冷える訳ないでしょっ!? 道真君がこんなに近くにいてびっくりしてるのにっ! 逆に熱いよっ!」
「…………」
「あ……」

 思わず口を付いて出た言葉に、道真だけでなくともえも固まった。

「あ……いやっ、だから、そのっ! 乙女に対して突然近づいたら駄目なんだからねっ!」

 慌てるともえに、道真はしばらく呆然としていたがやっと我に返って顔を背けた。

「―――悪い。お前、本当に、何て言うか……」
「えっ? なにっ!?」

 向こうを向いているので道真が何と言っているのかともえには聞こえない。

「――何でもない。もう部屋に戻るぞ、そんなに心配なら、足が痛くならない程度に明日からみっちりしごいてやる」
「さっき負けてもいいんじゃないかって言ったくせに」
「お前は負けたくないんだろ? 出来る限りの事をやりたいから、悩んで眠れなかったんじゃないのか?」
「それは……」

 この間と同じように道真に手を引かれながら、ともえは口ごもる。

「俺も同じだ。負けたくない……だが、お前が無理して怪我を悪化させるくらいなら、別に負けてもいいと思う」
「―――どうして?」

 まただ。

 道真は何を考えているのかさっぱり分からない。
 首を傾げるともえに、道真はまた不機嫌そうな顔を寄越す。

「さあな」
「変な道真君」
「お前に言われたくない」
「そう言えば、どうして道真君はこんな時間に庭にいたの?」

 急に思い出したように浮かんだ疑問を口にすると、道真はまたため息を吐いた。

「はあ……俺も眠れなかったからだ」
「ふうん」

 こんなやりとりが心地よい。
 きっと道真はともえを心配してくれたのだ。眠れず、一人で庭を徘徊していたともえに気付き声を掛けてくれたのだろう。
 本心が分かりづらい人物ではあるが、美琴の言うように本当は優しいのだ。
 大丈夫。
 道真が共にいてくれるなら、きっと試合も怪我も乗り越えられる。

 そう、強く思った。