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はなもあらしも 道真編

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 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。

「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」
「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」
「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、道真さんから出かける前にともえちゃんが調子に乗らないように、しっかり見張っていてくれって頼まれているんですもの。あまり道真さんに心配かけちゃだめよ」

 ともえは道真のあの忌々しそうに厭味を言う顔を思い浮かべる。

「くっ――が、我慢我慢……練習もやりすぎない」

 ぶつぶつと低い声でそう言うと、美琴が笑った。

「ともちゃん、道真さんの事が好きなのね」
「ええっ!?」

 完全に言葉に詰まる。
 ともえも美琴も互いに足を止め、往来の真ん中で立ちすくんでいた。
 ともえの頭は混乱していて、何か言わなければと焦れば焦るほど何も良い言葉は思い浮かばず、落ち着き無く視線をあちらこちらへ動かすばかりだった。 

「別に隠さなくてもいいじゃない。道真さん、いつもは無愛想でぶっきらぼうな物言いをするけど、本当はとても優しい人よ」
「――うん」

 知っている。
 だが、ともえよりも遥かに美琴は道真と時間を共にして来ている。自分の知らない道真を知っている美琴が羨ましい。

「美琴ちゃんは真弓さんの事が好きなんでしょ?」
「えっ? やだ、もしかして顔に出てた?」

 恥じらいながら眉を寄せる美琴に、ともえは微笑む。

「すぐに分かったよ。美琴ちゃんが真弓さんを見つめる時や真弓さんの事を話す時、すっごく素敵な顔をするもん」
「そうかしら?」
「好きって言わないの?」

 素朴な疑問に、美琴は慌てて手をパタパタと揺らす。

「言えないわ! 真弓さんは、確かに素敵な人だし、好きだけど……憧れって言った方が正しいかもしれないな」
「憧れ?」
「そう。私と美弦にとって、真弓さんは憧れの存在なの。だから、そういう意味で好きとはちょっと違うかも」

 それは恐らく違うだろうとともえは思った。恋する乙女の気持ちは、今のともえには良く分かるのだ。でも美琴がそれ以上真弓への気持ちについてともえに語らないのであれば、無理に聞く必要は無い。

「そっか……憧れ。うん、分かる気がするな。真弓さんって優しいもんね」
「ええ。ともえちゃんは、どうして道真さんの事を好きになったの?」
「えっ!?」

 改めて尋ねられると困るものである。ともえはまだ道真という男がどういう人間なのか、しっかりと把握出来ていないのだ。

「うーーーーーーん……分からないけど……多分」
「多分?」

 腕組みをしてたっぷり頭をひねり、ともえは顔を上げた。

「―――――やっぱり分からないや!」
「もうっ、ともえちゃんったら」

 それからともえと美琴は手を繋いで道場へと歩いて帰った。
 帰り道は気持ちも軽くて、道真への気持ちを再確認出来た事で憑き物が取れたように晴れ晴れとしていた。
 練習が出来ない事への不満は、美琴のおかげで解消されたらしい。美琴と友達になれて良かったと、深く感謝した。