はなもあらしも 道真編
* * *
正直道真は女と一緒に行動をするのが面倒だと思っていた。
弓道の道場としては名門と呼ばれる家柄に生まれ、顔立ちもそう悪くないおかげで昔から言い寄ってくる女は山ほどいた。が、どうにも慣れないのだ。
ふと隣りを歩くともえの様子を伺う。やたらと声が大きくて元気が良いという印象を持ったが、弓を射る時の表情は真剣そのものだった。
俺と同じ年だって、言ってたな……
昨日初めて出会った時の事を思い出し、ともえから目を離して前を向く。
「ねえ」
「あ?」
突然声をかけられ道真は内心慌てた。見ていた事がバレたのかと思ったのだ。そんな道真の考えなど知らないともえは、相変わらず芯の強そうな顔で道真を見上げると続ける。
「道真君は笠原道場に行った事あるの?」
「ああ。ガキの頃は交流試合を良くしてたからな。兄貴達と出向いてた」
「へえ……兄貴達って、真弓さんと垂司さんね?」
聞きたくない名前に軽く舌打ちをする。どうにも道真は長男である垂司とは馬が合わない。
道真の機嫌がどうやら損なわれたらしい事になんとなく気付いたともえは、話題を変える。
「あ、ねえ! 笠原限流師範って、どんな方なの?」
「限流師範……そうだな。まあ、厳しい」
ともえが自分に気を利かせたと気付いた道真は、少し驚いて答えながらともえを見る。
「き、厳しいんだ――」
「でも頑固ながらに弓道に真剣に取り組んでる人だな。弓道を愛してるから、伝統を守りたいって思うんだろうし……見えて来たぞ」
そう道真に言われ、ともえは前方へと視線を向けた。そこには日輪道場と同じ位大きくて立派な門が見えている。
「取りあえず、お前余計な事言うなよ」
「余計な事って何よ?」
「あそこは口が悪い門下生が多いからな。お前、何か言われたら口より手が先に出そうだし」
「子どもじゃないんだから、そんな事しないもんっ!」
「どうだか」
道真が面倒臭そうにぼそりと呟いた所で丁度門の前に到着し、拳を握って重そうな門を叩く。
しばらくするとゆっくりと門が開き、顔を覗かせた青年にともえはすかさず会釈した。
「こ、こんにちは! 日輪道場から参りました」
「雪人か。日輪道場の代表として挨拶に来た。限流師範は?」
ジロリとともえと道真を睨むと、雪人と呼ばれた青年が口を開いた。
「道真君……君が代表とはね。てっきり真弓さんかと思っていたのだが……まあいい。君とは決着をつけなくてはいけないから、望む所だ―――ところで、こちらの方は?」
どこかしら冷たい雰囲気の雪人は、再びジロリとともえを見る。
何だか怖そうな人だな……
自分と同じ位の年齢だろう雪人に、ともえは気持ち身構える。
作品名:はなもあらしも 道真編 作家名:有馬音文