はなもあらしも 道真編
第二話 日輪と笠原 〜後編〜
うーん、悩む……悩むけど、ここは一つ思い切って道真君にお願いして、みようかなーー?
嫌な顔をされそうだと分かっていても、道真の弓道にはどこかしら魅力があるように感じる。
「あの、道真君と、一緒に試合に出たいです」
漸く心を決めてともえが言うと、すぐに幸之助は頷いて道真を呼んだ。
「道真、お前がともえさんと一緒に我が道場の代表として試合に出なさい」
「……分かりました」
頭に一瞬の間があったが、取りあえず了解をした道真をちらりと見る。と、すぐに真弓がともえの側にやって来て、
「緊張しなくても大丈夫。分からない事があったら道真に聞くといい、ちゃんと教えてくれるから。僕ももちろん手伝うから、頑張って」
微笑む真弓に勢いよく頭を下げる。
「はい、ありがとうございます! 頑張ります!」
緩慢な動きで真弓の隣りまでやってきた道真が、相変わらずともえと視線を合わせずにぼそりと呟いた。
「取りあえず、足手まといにだけはなるなよ」
「くっ……」
悔しいが今のともえの実力では道真には到底及ばない。今に見てろと心の中で呟いて道真を睨み上げた所で、門下生達から拍手が起こった。代表者二人を激励してくれているのだ。
「よし、それでは道真、ともえさん」
「はいっ」
ともえは背筋を伸ばし、幸之助をじっと見る。
「笠原道場に、二人でご挨拶に行きなさい。相手の代表者とも顔を会わせておくといいだろう」
なんと、敵である笠原道場へ挨拶に行くよう突然言われた。ともえに緊張が走る。
「分かりました。おい、着替えて飯食ったら行くぞ」
「うん。分かった」
やはり道真を選んだのは早計だったかと、多少の不安を抱えながらも、ともえと道真は笠原道場へ向かう事となったのだった。
作品名:はなもあらしも 道真編 作家名:有馬音文