はなもあらしも 道真編
「道真くん……?」
「どうした、今、誰かそこにいなかったか!?」
珍しく声を荒げる道真は、ともえを地面に座らせて路地の向こうを睨みつけた。
「それが、良く分からなくって。急に足に痛みが走ってそのまま倒れたからーー」
そう言ってともえが着物の裾をめくると、左足にくっきりと棒状の痣が浮き上がっていた。
「くそっ……笠原の連中か」
「え……?」
「あいつら、本気で俺達を潰す気なんだ……こんな卑怯な事やるとは、武芸者の風上にも置けない」
忌々しそうにそう言いながら、道真はともえの着物の汚れを払い、転がった荷物を拾い上げ次にともえの体を抱きかかえた。
「ちょっと! 道真くんっ!?」
「なんだ?」
「なんだじゃなくて、恥ずかしいよ!」
日が暮れて来て人通りも少なくなっているとはいえ、天下の往来の真ん中だ。何事かと過ぎ行く人が見て行く。
「その足、これから腫れるぞ。試合に向けての練習もしないといけないんだ、今無理して悪化されたら同じ代表の俺が困る」
それだけ言うと、道真はさっさと歩き出した。
残念ながらともえは道真の正論に反駁を加える余地もなく、ただ黙って道真に身を任せるしかなかった。
「ところで道真くん」
「なんだ?」
「どうしてここに?」
ごく当たり前の質問をする。と、道真は下からじっと見上げるともえの視線から逃れるように横を向くと、
「お前がちゃんと間違わずに買えたか不安になって見に来ただけだ。まさか怪我をして倒れるなんて思わなかったがな」
ざわりとともえの心臓がうごめいた。
家を出る時と今の道真の様子から、ともえを案じてくれていた事がようやく分かったのだ。
美琴が真弓を見る時のあのはにかんだ笑顔がふと頭をよぎる。
改めて道真の顔を眺めると、ともえはもう一度心臓がざわめくのを感じた。
作品名:はなもあらしも 道真編 作家名:有馬音文