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はなもあらしも 道真編

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「御免下さいー」

 引き戸を開けると、そこは弓具が所狭しと並べられていた。

「うわあ、すごい!」

 田舎の弓具店とはその種類も数も比較にならない多さで、ともえは楽しくなった。

「いらっしゃいませ」

 奥から顔を出した店主に、ともえは直ぐさま頭を下げる。

「こんばんは、日輪道場の使いで来ました。それと、道真さんのいつもの矢をお願いします……」
「おや、もしかしてあなたが那須智正(ともまさ)さんの娘さんですか?」

 店主は笑顔でともえを向かえてくれた。

「父をご存知なんですか!?」
「ええ、昔東京で修行をしていた時分に、よく家に見えてましたから。ああ、幸之助さんと道真くんのお使いでしたね、用意しますから、ゆっくり見ていてください」
「はい! ありがとうございます!」

 随分と人当たりの良い店主に元気よく答え、ともえは弓や弦、ゆがけ、矢、矢筒など、じっくりと見て回った。
 ふと、一本の弓が目に留まる。

「何かお気に召したものがありましたか?」

 荷物を風呂敷にまとめて戻って来た店主を振り返り、ともえはその目に留まった弓を指差した。

「この弓、とても美しいですね」
「ああ、これですか。家が直接お願いして作って頂いている弓なんですよ。良かったら手に取って弓を引いてご覧なさい」
「いいんですか?」
「もちろん、使って頂く為の弓ですからね」

 店主が弓を取ってともえに渡す。それを受け取ると、思ったよりも軽くて程よい重さがあった。弓を構え弦を引く。どんどんとしなって行く弓の感触に、ともえは引き切った弦を弾いた。

「すごくいい感触です!」
「ふふ。お父様の弓を引く姿に良く似てらっしゃる……そうだ。その弓は私からあなたへ贈らせて頂きましょう」
「えっ!? でもっ、こんな高価なものを頂く訳には……」
「いいえ、いいんです。あなたのお父様には良くして頂きましたから、是非、贈らせてくださいまし」
「―――あのっ、ありがとうございます!」
 深々と頭を下げると、店主は嬉しそうに目を細めた。

「あなたに使って頂けるなら、私も嬉しいです。またいつでも遊びにいらしてください」
「はい、もちろんです! 本当にありがとうございました!!」

 東京に来て、過去の父を知る人物に出会い良くしてもらえた事で、ともえは父を見る目が変わった。

 元気にしてるかな、父上―――

 手紙を書こう。そう思いながら、ともえは弓具店を後にした。