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家族と性格

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 最初に入ってきた時には、完全に何かの覚悟を持って、自分を逃げられない状況に追い込んだかのように、カッと見開いた目が、その気持ちを表していた。まるでこちらが出した果たし状に対して、相手は道場やぶりにやってきたかのような勢いだった。
 その勢いに負けたわけではないだろうが、母親は咲江を恭一に引き合わせた。あるいは子供同士ならばお互いの気持ちがよく分かるとでも思ったのかも知れない。
 だが、勢いは最初だけだった。二人きりになると、恭一を見る目が、完全に身を委ねるというそんな視線に変わっていた。目の焦点は合っておらず、恭一を凝視しようとしているのだが、自然と視線が横にずれている。それは咲江の決意が中途半端だからだろうか、それとも気落ちが中途半端なままやってきたからだろうか?
――中途半端?
 恭一はその時に自分のことを思った。
 恭一はいつもいろいろ考えていたが、いろいろ考えるがゆえに、その考えすべてが中途半端になってしまっていて、先が見えていないような気がした。
 自分と相対する人、皆が自分に対して中途半端になるのは、そんな恭一に中途半端なところを見出すことで、それ以上入り込まないのではないか。
 それは義母にしても咲江にしてもそうだ。決意を固めたはずなのに、最後の一線を越えるのを躊躇っている。それは自分が我に返って冷静に考えたからだと思っていたが、それだけではないのかも知れない。
 いや、逆に恭一が中途半端なおかげで我に返ることができているのではないかという考えは、あまりにも恭一にとって都合のいい考えではないだろうか。そう思うと、父親に対しての考え方も変わってくる。
 恭一が父親に対して考えているのは、あまりにも違っている性格や趣味趣向、これはまるで自分への当てつけではないかと思うほど違っている。ということは父親も同じことを考えているのであり、自分の方が先に生まれている(もちろん自分が父親なのだから)のから当たり前なのだろうが、そう思うとまったく遺伝は関係ないということにもなる。
 だが、急に途中から人を寄せ付けなくなったのは、恭一のことを考えてのことではないかと思うと、何となく理解することもできる。
 しかし、それを差し引いても、自分の性格や趣味趣向を押し付けようというのは、恭一から見れば、本末転倒に思う。結局解決策が見つからず、最終手段としての強硬に及んだとするならば、それが本末転倒だというのだ。
 強引に押し付けても反発するだけだということは父親には分かっているはずだ。だからこそ、恭一のことを考えてなのか、急に人を家に連れてこなくなったり、家族の調和を何よりも優先しようとしているのではないだろうか。
 ひょっとすると母親との離婚の原因もそういうところにあったのかも知れない。
「お父さんは、こうと思うと実行しないと我慢できない人だから」
 と母親が言っていたことがあったが、まさにそうなのかも知れない。
 確かに実行力は認めるところがある。実行力という意味では恭一にはないかも知れない。あるとすれば、家出をして母親のところにやってくるくらいか。それを実行力と言えるのかどうか、悩みどころでる。
 だが、そんな父親でも絶えず悩んでいる。行動力があって自分をある程度確立しているということでの父親は尊敬に値するところだと思うし、その尊敬を否定することはできない。
 それなのに恭一は母親ばかりを意識してしまっていた。道子さんや咲江に感じた思いも、結局は母親に対しての感情とどこが違うのか、すぐに答えを求めることはできない。優柔不断だと言ってしまえばそれまでだが、それだけではないような気がする。
 結局、恭一はどうしたいのか?
 今の母親を見て、そして涙目になりながらも自分を迎えに来てくれた咲江を見て、何かが分かった気がする。
「要するに俺は、父親という呪縛から逃れたいだけなんだ」
 ということであるが、この呪縛というのが何を意味しているのかということである。
 父親の普段の態度や言っていることに矛盾はない。そういう意味ではもっともなことを言っているので、反論などできるはずもない。それが恭一には苛立ちに感じさせるのだ。
 そして感じるのは、
「そんなことは分かっている」
 と、最初から分かっていたという感情である。
 考えてみれば、子供の頃から恭一の中での思いは、
「自分が何かをしようと考えていたのを人に指摘されると意地でもしたくない」
 という思いが頭をよぎることであった。
 つまり一番の解決策としては、
「もう、俺のことに構わないでくれ」
 という思いが通じることであろう。
 そのことに気付いた時、まわりの皆も大なり小なりこのことを感じているのではないかということであった。
 人との関わりを気にしている人であっても、引きこもっている人であっても、心のどこかで、
「もう関わらないでほしい」
 という思いが渦巻いているような気がした。
 自分以外の人がそう考えているということを分からないから、人間関係がギクシャクする。そう思うと、
「人と人との関わりなどというのは、矛盾や歯車が噛み合わないということの積み重ねのような気がする」
 と感じた。
 下手に人のためを思って助言したりするのは、却って相手を追い詰めることになる。相手が望めばその枠ではないのだろうが、逆に人というのは、
「相談しようとすると、相手は訝しがってしまう」
 と考えることで、人に相談もできないという風潮になる。
 しかも、それでも相談すれば、相談した人が他の人から、
「相手の都合も考えずに、図々しい」
 という輩も出てくるだろう。
 そうなると、人間関係などあってないようなものだ。
 恭一は今回のことで思い知った気がした。実際に血の繋がっていない相手と一緒に暮らすことで気を遣うことを覚えたが、実はこれが本当の意味での人間関係に近いと思うと、今の自分の立場もそう悪いものではないような気がした。そう思うと、義母や咲江とはうまくやっていけるような気がしたが、父親だけはどうしようもなかった。だが、これからは父親を無視すればいいだけだ。どんどん成長してくる恭一にはその機会は間もなく訪れる。それを待っていればいいだけで、それまでにきっと義母や咲江ともいい関係になれるであろう。一緒に暮らしていないという意味で実の母も同じであった。
 せっかく咲江が迎えに来てくれたのだから、恭一は一緒に帰ることにした。母親のところにやってきて、ちょうど一週間が経っていた。
 帰り道、咲江を制して児童公園のベンチに座り、空を見ていた。夕日が沈むその光景を、咲江を一緒に見ていたが、初めて一緒に見たような気がしない恭一だった。西日に光った咲江の頬にはさっき流された涙の痕がついていて、優しく拭ってあげたい衝動に駆られた恭一だった……。

                 (  完  )



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作品名:家族と性格 作家名:森本晃次