小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

はなもあらしも ~真弓編~

INDEX|28ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

「十日程前、私は偶然那須さんと真弓さんにお会いしました。その時は歩くのもお辛そうにしておいでで、聞けば暴漢に襲われたとか……その時は大変な事としか思わなかったのですけど、先ほどそこのお二人が小声で話しているのを聞いたのです」

 苦しそうに言い捨てると、人だかりの奥から二人の男が姿を現した。

「すみませんでした!」
「そんなに酷い怪我をさせるつもりはなかったんです!!」

 言うが早いかともえに向かって土下座をする二人の顔に、ともえは見覚えがあった。弓具店からの帰りに襲った男だ。 

「あっ」
「私は悔しくて、情けなくて、代表として試合に出ているのが辛くなったのです……」

 顔を両手で覆った橘の肩に優しく手を添え、限流が口を開いた。

「幸之助……試合はお前達の勝ちだ。私は伝統を重んじることにばかり気を取られ、弟子達の心の教育を怠ってしまっていたようだ」

 その重みのある言葉に、誰もが俯く。

「闇討ちで足を怪我させるなど、武道家として絶対にやってはいけない事。二人にはしかるべき罰を与える」
「申し訳ありませんでした―――」

 どこからともなく、すすり泣く声が漏れ聞こえ、笠原道場の門下生達は膝を折って肩を震わせた。そんな中、幸之助が言った。

「……なあ、限流。確かに我らは流派が違う。だが、だからといっていがみ合う必要はないと思うのだ。時代は変わった。武芸で録をもらう時代は終わったんだ……我々が弓道界の為に出来る事を模索して行かなくてはいけないのではないだろうか?」

 ともえは息を飲んで限流の答えを待った。

「どうして私はお前の言葉を素直に聞けなかったのだろうな……伝統を重んじる心は大切だが、それ一辺倒ではいけないと、何故、ここにいる皆の涙を見るまで気付かなかったのだろうか」

 まるで物語を話すように語る限流に、誰もが意識を傾けていた。

「幸之助、これからは新しい時代と共に、我ら弓道家も歩もう」
「限流……」

 やっと落ち着きを取り戻した頃、横から真弓が現れた。

「限流師範。彼らは僕の大切な人を傷付けました。きっと師範から厳しい罰があると思いますが、僕からも一言いいでしょうか?」

 穏やかな口調でそう言うと、限流は黙って頷いた。
 真弓はともえの前で萎縮する二人に顔を寄せ、見た事のないくらいの満面の笑みを浮かべると、

「君達、弓道をする者として僕はとても残念に思うよ。もう二度と、こんな事はしないで欲しい。それから……もし、彼女にまた何かした時はーーー二度と東京の地は踏めないと思ってくれて構わないからね」

 なんとも恐ろしいセリフを言った。

「ひいっ! すみません、もう二度としませんっ!」
「本当に許してくださいい!!」

 よほど恐ろしかったのか、二人は倒れるように真弓の前から逃げた。

「さて、試合に勝った報告に、我が道場に帰るとするか」

 幸之助の一言で、ともえはやっと現実に戻る事が出来た。
 そうだ、勝ったのだ……

「はいっ!」