はなもあらしも ~真弓編~
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真弓は隣りを歩く少女を横目でチラリと見、自然と口元を綻ばせた。
きりりとした表情は少女と大人の女性の中間で、長い髪を後ろで高く結っている姿は凛々しくすらある。そんな真弓の視線に気付いたともえが顔を上げ、真弓とぶつかった視線に恥ずかしそうに目を泳がせた。
「あの、真弓さんは笠原道場の方はご存知なんですか?」
「うん、小さい頃はまだ交流も多かったからね。流派は違うけど、交流試合なんかをよくしていたよ」
「へえ……あの、笠原限流という方はどういった方ですか?」
「そうだね、厳しいけれど弓道に真剣に取り組む師範だね。少し頑固すぎるから、何でも取りあえずやってみようとする家の父とはよく意見がぶつかっていたなあ」
ともえは真弓の説明を聞きながら頷いている。
「ほら、見えて来た。あそこが笠原道場だよ」
目ざす先には日輪道場と同じ位大きくて立派な門が見えている。ともえは目を大きくさせて頬を強ばらせた。
「お、大きい道場ですね」
そんなともえの様子に真弓が笑う。
「緊張しているの? 大丈夫、取って食われたりすることはないから」
「とって……って、真弓さん、怖い事言わないでください!」
どうやら本当に緊張しているらしいともえに睨まれた。真弓は少しのんびりした性質のため、あまり深く物事を考えない傾向が多少ある。それでも実際は長男がのらりくらりとしているものだから、自分がしっかりしなければ、とは思っているのだ。
「あはは、でも、結構強烈な門下生が多いからなあ」
真弓がぼそりと呟いた所で丁度門の前に到着し、拳を握って重そうな門を叩く。
しばらくするとゆっくりと門が開き、顔を覗かせた青年にともえはすかさず会釈した。
「こ、こんにちは! 日輪道場から参りました」
「やあ、雪人君久しぶり。笠原師範はおいでかな? 今度の試合、日輪道場の代表として僕達が決まったからご挨拶をしに伺ったんだけど」
ジロリとともえと真弓を睨むと、雪人と呼ばれた青年が口を開いた。
「こんにちは、真弓さん。やはりあなたが代表に選ばれましたか……相手にとって不足はありません―――こちらの方は?」
どこかしら冷たい雰囲気の雪人は、再びジロリとともえを見る。
何だか怖そうな人だな……
自分と同じ位の年齢だろう雪人に、ともえは気持ち身構える。
作品名:はなもあらしも ~真弓編~ 作家名:有馬音文