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Journeyman part-3

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 ゴール前3ヤードまで迫った攻撃もあったのだが、強力ラインの前にランが封じられ、ティムの機動力を生かしたパスも試みたが、サックを浴びてタッチダウンに至らなかったのだ。
 一方、エリーズの攻撃も、シーズンを戦う中で向上して来たサンダース・ディフェンスに阻まれて思うように進めない。
 ジムが構成したディフェンス・チームには元々大きな穴はない、ビッグネームはベテランの3人とドラフト全体2位のデイブ・ルイスくらいだが、それ以外の選手も他チームのスターターよりも能力が劣っていたわけではなく、様々な事情で出場機会が得られていなかった選手たち、初めてのシーズンを戦って来る中で向上してきている。
 しかもジムが目指したのはタレントの寄せ集めではなくチームとして機能するディフェンス、少々前進を許しても要所をしっかり締めるディフェンスで隙を見せず、タッチダウン1本に抑えて来たのだ。
 その1本もサードダウン・ロングでイチかバチかのロングパスが通り、そのままエンドゾーンまで走り込まれたもの、ビルもディフェンスが引き裂かれたと言う印象は抱いていない。

 後半に入ると、エリーズはクォーターバックを代えて来た。
 前半プレーしていたのは、あまり高いレベルとは言い難いが安定したプレーを見せるベテランだったが、オーソドックスに攻めていてはサンダース・ディフェンスをこじ開けられないと見て、多少粗削りではあるが、身体が大きく肩がめっぽう強い若手に切り替えて来たのだ。
 最初のプレーは相手陣内25ヤード地点から一気にタッチダウンを狙うような超ロングパス。
 コーナーバックはワイドレシーバーに体一つ抜かれていて、パスが通ればそのままタッチダウンと言うプレーだったが、パスが少し長過ぎて事なきを得た、しかし60ヤードを軽々と投げられればコーナーバックはレシーバーとの間を取らないわけにはいかなくなる。
 するとミドルパスが通り始め、サンダースはレッドゾーンまで押し込まれた。
 サンダース陣内17ヤード地点からの攻撃は止めてフィールドゴールに追い込んだものの、サンダースは9-10と逆転を許してしまった。
 
 相手キックオフはタッチバックとなり、サンダース陣内25ヤード地点から後半最初の攻撃、サンダースは前半隠しておいた秘密兵器を繰り出した。
 Iフォーメーションからフルバックのゲーリー・パーカーが中央付近を衝く、リーグ屈指のディフェンスタックル・スミスがすぐさま反応すると、ティムは一旦ゲーリーに渡したように見えたボールを引き抜き、右オフタックル付近を自らのランで衝いて行く、相手ディフェンスエンドはゲーリーへのフェイクに引っかかっていたものの、ラインバッカーがティムに迫る、タックルされると見えた瞬間、ティムは斜め後ろを走っていたケンにピッチ、ケンは迫って来たセイフティをハンドオフで押しのけるとサイドライン際を駆け上がって行った。 25ヤードのロングゲイン。
 サンダースがこの試合に備えて練習して来たプレー、トリプルオプションだ。
 フルバックにそのままボールを持たせる、自分で走る、ランニングバックにピッチする、3つの選択肢をクォーターバックが判断して行くのでこの名がある。
 クォーターバックに瞬時の判断力が要求されることと、ボールセキュリティが甘くなりがちなことからプロではあまり使われないが、70年代後半から80年代初頭にかけて、カレッジでは隆盛を見せたプレーだ、ティムは大学時代にこのプレーを得意としていた。
 ただし、カレッジではファンブルしたボールはリカバーするだけだが、プロではボールを拾ってそのまま走っても良い、更にプロではボールにヘルメットで当たってはじき出す。タックルしながらボールを掻き出すと言ったファンブルを誘うためのプレーが徹底されているので、オプションはリスキーなプレーだとして敬遠されている、だが極端に反応の良いエリーズのディフェンスライン、ラインバッカー陣はフェイクにかかりやすい傾向がある、事実、今のプレーはビッグプレーとなった。
 ビルはリスクが大きいこのプレーを多用するつもりはない、だがこのプレーがあることを見せつけておけば相手ディフェンスの反応を鈍らせることが出来る、それが大きな狙いなのだ。
 実際、目に見える効果が出始めた。
 ゲーリーにせよ、ケンにせよ、パワーのあるランナーが中央を衝いても前半はほとんどノーゲインに終わっていたのだが、2ヤード、3ヤードと進むようになった、そしてそのプレーをフェイクにしてティムがボールを持って走り出せばランとパスの両方をケアしなければならない、更に最後尾を変幻自在のクリスが走っていればセイフティはレシーバーをダブルカバーすることはできない。
 サンダースのラン攻撃は息を吹き返し、相手レッドゾーンに入ってもじわじわと押せるようになった、そうなればパスへの対応は甘くなる、相手陣内7ヤードからの攻撃で、ティムはゲーリーへのハンドオフ・フェイクを入れて右へ走り、セイフティが自分に向かって来るのを見定めてジミー・ヘイズにパスを通して、この日最初のタッチダウンを奪った。
 そして、ここでビルは2点コンバージョンを指示した。
 
 フットボールではタッチダウンを奪うと6点が与えられ、追加で一回限りの攻撃権が与えられる。
 キックを選択した場合は15ヤード地点からのフィールドゴールとなり、これは95%くらいの確率で成功する、通常のプレーを選択した場合は2ヤード地点からの攻撃となり、成功すれば2点が与えられるが、守るべきエリアが狭いために成功率は低い。
 それゆえキックを選択するケースが圧倒的に多いのだが、得失点差によっては成功率が低いことを承知の上で2点を狙いに行くこともある。
 タッチダウンの6点を加えて、15-14とサンダースのリードは1点、1点を追加しても16-14、フィールドゴールで逆転可能な点差に留まる、だがここで2点を奪えば17-14となりフィールドゴールを奪われても同点止まり、しかもポイント・アフター・タッチダウンではファンブルリカバーやインターセプトがあってもそこでプレーは止まり、相手に得点されることはない、トリプルオプションならば2ヤードを取れる可能性は高く、しかもリスクはない。
 
 2ヤード地点からIフォーメーションでの攻撃。
 ゲーリーに中央を衝かせるが、2ヤードを取るには最も可能性が高いこのプレーにはスミスとワトキンスが即座に反応する、ティムはゲーリーからボールを抜き取って右に走りながらパスの構えを見せた、するとラインバッカーとセイフティが体重を後ろにかけた、パスに備えてバックするためだ。
 ティムはその挙動を見逃さなかった、姿勢を低くしてもぐりこむようにエンドゾーンに飛び込んで行く、ラインバッカーにのしかかられるように潰されたものの、ティムの膝が地面に触れた時、既にボールはエンドゾーンの中、審判の両手が高々と上がり、サンダースは2点を追加し、17-10とリードを広げた。
作品名:Journeyman part-3 作家名:ST