小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Journeyman part-3

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 その後もロースコアの展開は続いた、サンダースは息を吹き返したラン攻撃と短いパスで着実に前進する、エリーズ・ディフェンスに要所を締められてタッチダウンは奪えないものの、敵陣30ヤード近辺まで進めば今日好調の飛鳥がいる、飛鳥は更に2本のフィールドゴールを決めてエリーズを突き放しにかかる。
 しかし、エリーズもまたプレイオフがかかった大事な試合、剛腕クォーターバックのパスで攻め込み、サンダース・ディフェンスがレッドゾーンで踏ん張る展開、フィールドゴール3本を挙げられて23-19と追いすがられた。
 
 そして第4クォーター、サンダースはファーストダウンを更新できずにパント、エリーズ陣内30ヤード付近から残り48秒でエリーズの攻撃。
 ここへ来て2点コンバージョン成功が効いて来た、エリーズはフィールドゴールの3点では追いつけずタッチダウンが必要な状況、逆にサンダースはタッチダウンさえ奪われなければ逃げ切れる。
 残り時間との勝負になり、エリーズはパスに頼らざるを得ない、ファーストダウンはパス失敗、だがセカンドダウンでフィールド中央付近へのミドルパスを通され、ハーフウェイ付近まで進まれてしまった。
 エリーズのファーストダウン、エリーズはタイムアウトを使って時計を止め、残り時間は36秒。
 ファーストダウン、セカンドダウンはサイドライン際へのパスが続けて失敗。
 そしてサードダウン、サイドライン際は読まれていると察したエリーズはタイムアウトを使うことを覚悟の上で、フィールド中央へのミドルパスを狙って来た。
 それに反応したのはベテランセイフティのチャーリー・ウッズ。
 タッチダウン阻止のためにレシーバーとの間を広めに開けていたのだが、クォーターバックの視線が中央に固定されたのを見て取り、間を詰めてパスカットを狙いに行った。
 パスはやや高めに浮き、ジャンプしたレシーバーとのボールの取り合いとなった。
 身長ではレシーバーに劣るウッズだったが、後ろから助走をつける形になっていたのが功を奏して高さは互角、そして身体の方向が勝負を分けた。
 ボール進行方向に対して後ろ向きとなってジャンプしたレシーバーと進行方向に向かってジャンプしたウッズ、ウッズの手が僅かに前に出た。
 インターセプト! この瞬間に勝敗は決した。
 二―ダウンで時間を消費するサンダースに対し、エリーズは残り2個となったタイムアウトを取って抵抗するが、サードダウンでティムがニーダウンするとエリーズの抵抗もここまで、サンダースの選手たちがサイドラインから両手を高々と突き上げてなだれ込んでくる中、時計は00:00を表示した。
 
 大事なこの一戦をものにしたサンダースの目は液晶スクリーンに釘付けだ。
 そこには各地の試合経過・結果が映し出されている、もちろん気になるのはダラス対マイアミの試合、同じ時刻にキックオフされているがラン攻撃の多いサンダースの試合は少し進行が早くダラスでの試合はまだ終了していない。
 現在スコアは28対26でダラスのリード、どちらが攻撃中なのかわからないがスコアには『4Q』の文字、それは第4クォーターの意味、まだ試合は終わっていない、もしマイアミが攻撃しているのならばフィールドゴール1本で逆転できる点差なのだ。
 ロスアンゼルスは日系人も多い土地柄、敵地なので数は少ないもののサンダースのファンも詰めかけて来ていて選手たちと一緒に試合経過を見守る……。
 すると『4Q』の文字が『FINAL』に変わった、スコアは28-26のまま……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 ダラスのスタジアムでは、残り時間1秒でマイアミが58ヤードと難しいフィールドゴールを狙っていたのだが、ボールは僅かに外れ、ダラスのサイドラインから歓喜の雄たけびを上げながら選手たちがフィールドに流れ込んでいた。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 気が抜けたように座り込む選手たち……あと一歩でプレイオフ進出を逃してしまったのだ。
 だが……スタンドの一角を占めていたサンダース・ファンから小さな手拍子が起こり、それはじきに大きな手拍子になって行った。
「これは? どういうことだ?」
 アメリカでは手拍子による応援の文化はない、選手たちがわからなかったのも無理はないが……。
「日本ではこうやって手拍子で応援するんだ、よくやったぞって意味だよ」
 和田飛鳥がそう説明している間に、手拍子はまだ残っていたエリーズ・ファンの間にも広まって行った。
「プレイオフを逃したのは悔しいが、新設チームの俺たちが10勝して最後までプレイオフ進出を争ったんだ、胸を張ろうぜ」
「そうだな」
「ああ、残念だけど充実感はあるよ」
「ならば二列に並ぼうぜ」
「どうして?」
「日本じゃそうやって並んで行進して声援に応えて感謝の意を表するのさ」
「そうか、それじゃ並ぼうじゃないか」

 サンダースの面々はコーチやスタッフに至るまで列をなし、飛鳥を先頭にしてフィールドの周りを行進し始めた。
 暖かい手拍子を浴びながら、胸を張り、晴れやかな表情で……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「なんか良いわね、サンダースがすっかり日本のチームになったって気がする」
 病室のテレビでリックがその様子を見ている、隣には由紀の姿があった。
「どうだろう? 日本のファンは来シーズンも試合を見に来てくれるかな?」
「当たり前よ、もうサンダースはすっかり日本のチーム、あたしたちのチームよ」
「プレイオフは逃しちまったけどな」
「日本にはね、堂々と戦った敗者を敬う文化があるのよ」
「ああ、ジムから聞いた覚えがあるよ……ハンガー何とかと言っていたな」
「それを言うなら判官びいき、でもね、それは弱い方を応援したがるって意味、そもそもサンダースは弱いチームじゃない、新設チームで10勝6敗なんて立派じゃない」
「ああ、正直ここまでやれるとは思っていなかったよ」
「あら、エース・クォーターバックがそんなことで良いの?」
「もうエースじゃないさ、エースはティムだ」
 リックは肩をさすりながら言った……。

 チームに戻りたいのはやまやまだが、もし自分がGMなら肩を骨折して回復の保証がない35歳のジャーニーマンとの契約は更新しないだろう……とも思う……チームのことを第一に考えて私情を挟まずに判断を下すのがGMの仕事、それは非情なことでも何でもない……。
(カットを言い渡される前に自分から身を引こう、何のしこりもなくチームを去るにはそれが一番良い、引退は唯一選手に与えられている人事権なのだから)
 リックはそう心に決めた。

作品名:Journeyman part-3 作家名:ST