小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

はなもあらしも

INDEX|7ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

 * * *

「お待たせしました」
「いや、早かったね……」
「どうかしましたか?」

 じっとともえを見て無言になった真弓に、ともえが首を傾げる。
 ふっと笑うと、

「いや、ともえちゃんは袴姿がとても良く似合うな、と思ってね。やっぱりいつも着ているからかな? 可愛いよ」
「えっ!? あっ、ありがとうございます……」

 また可愛いと言われ、ともえは戸惑った。実家では誰もともえにそんな言葉を掛けてくれた事などなかった。真弓の言葉が本心からかお世辞なのかは分からないが、やはり年頃の女の子なのだ、可愛いと言われて嬉しくないはずがない。

「よし、ともえちゃんのお手並み拝見と行こう」

 それから再び廊下を歩き、勝手口へと向かう。
 外へ出ると、先ほどの颯太とまた違う少年と道場の前で会った。
 随分と可愛らしい顔をしていて、その風体にともえは先ほどここまで案内してくれた美琴の顔を思い出す。

「あっ! もしかして、あなたが美琴ちゃんの双子の弟さんっ!?」
「そうだけど……あなたは?」

 可愛らしい少年が不審そうな瞳をこちらに向けているのに気付いて、ともえはまだ自己紹介も済ませていない事を思い出し、慌てて頭を下げた。その様子を見た真弓が横からフォローする。

「彼女が今日から一緒に修練に励む那須ともえちゃん。美弦、仲良くしてあげるんだよ」
「はいっ! 真弓兄さま」

 真弓にそう紹介されると、美弦は無邪気な笑みを浮かべた。その顔は天使のように可愛らしい。その様子に満足そうに頷くと、真弓は今度はともえに向って目の前の少年を紹介した。

「この子は弓槻美弦(ゆづきみつる)といって、颯太と同じ僕達の従兄弟。ともえちゃんより二つ下の十六歳。……美琴ちゃんとは知り合い?」
「実はここに来るまでに道に迷ってしまって、偶然出会った美琴さんにここまで案内してもらったんです」
「そうか、駅まで迎えの者を出せば良かったね」
「いえっ! そんなっ!」

 そう言って和やかに会話する真弓とともえの姿を美弦は恨めしそうに眺めていた。

(こんなやつ、ずっと迷ってれば良かったんだ。美琴のやつ余計な事しやがって。女の子が道場で一緒に修業? 冗談じゃない。可愛いのは僕だけで十分なんだから!)

 などと内心思いながら。美弦は真弓の信者といってもいい程に彼を求道者として、また兄として信奉しているので、そこに突如現れたともえの存在が面白くないのだ。とはいえ、露骨にそれを顔に出して真弓に嫌われるわけにもいかない。美弦の心情は煩悶としたものである。

「さ、それじゃ道場の中へ案内するよ」
「はいっ!」
「それじゃ、美弦。またあとでね」
「はいっ! 真弓兄さま! ともえさんも頑張ってくださいね!」
 
 そう言って元気に微笑んでくれた美弦に、ともえもにっこりと笑みを返す。美弦の横を通り過ぎ、道場へと足を踏み入れようとしたその瞬間、

「とっと帰れよ、男女」

 小さく何かが聞こえた気がした。

「え?」

 思わずともえが振り向くと、そこには相変わらず可愛らしい顔で微笑をたたえたままの美弦が立っていた。

(気のせい……? そうだよね、気のせいに決まってる。なんか緊張してるのかな、私。よしっ、気合い入れるぞ!)

 ともえは自分の頬を軽くパンっと叩いて気合いを入れ直すと、左足を大きく開いて道場内へと踏み込んだ。
作品名:はなもあらしも 作家名:有馬音文