はなもあらしも
「彼女は那須ともえちゃん。今日から家に住むことになるんだ。仲良くするんだよ」
「ああ、あんたがともえ? オレは日輪颯太(そうた)真弓兄とは従兄弟だ。よろしくな」
「あ、よろしくっ」
先ほどの道真とは違い、颯太という少年は随分親しみやすい感じがした。にかっと笑うと、手を振りながら草履を履いて戸口から出て行く。
「後で道場に来いよ。弓道、やるんだろ?」
「あっうん、行くね!」
颯太の姿を見送って、ともえは笑顔で草履を脱いだ。
「颯太は人懐っこいから、話しやすいと思うよ。年は君より一つ下だ」
「はい、何だか気が合いそうです」
「良かった。じゃあ、まずともえちゃんの部屋へ案内しよう。こっちだよ」
勝手口のすぐ横は台所で、一体どこの旅館かという広さだった。その台所を過ぎ、長い廊下をくねくねと進む。
しばらくしてやっと部屋に到着し、その広さと小綺麗さに再び感嘆する。
「わあ……! こんなに素敵なお部屋を使わせてもらっていいんですか?」
畳は新しく入れ替えてあるらしく、い草の香しい匂いがした。
「誰も使っていない部屋だから、遠慮しなくていいよ。じゃあ、道場へ行くかい?」
「はいっ! あの、準備するんで、少し待っていてもらえますか?」
「もちろん。準備が終わったら声を掛けてね」
あのくねくねした廊下を歩いて一人で道場まで辿り着く自信がなかったともえは、襖が閉められた瞬間ものすごい勢いで着物を脱いで袴に着替えたのだった。