はなもあらしも
道場内ではすでに何人もの弟子達が次々と弓を放っていた。
邪魔をしないように隅の方へと足を進めようとすると、真弓がパンパンと2回手を打ち鳴らした。その音を聞くと弟子達は弓をおさめ、真弓とともえの元へと一斉に駆け寄ってきた。
「みんな、今日からこの道場で一緒に弓の道を学ぶ事になった那須ともえさんだ」
「安芸から参りました、那須です。よろしくお願いします!」
ともえが元気よく頭をさげると、皆も礼儀正しく頭を下げた。
「那須さんがこの道場に一日も早く慣れ親しめるよう、皆よろしく頼んだよ」
「「はいっ!」」
きちんと教育された弟子達の気持ちの良い返事に、ともえは弾むような心地で胸がいっぱいになった。
「それじゃ、早速始めてみるかい?」
「はいっ!」
返事をすると、ともえは弓をぎゅっと握りしめた。
日輪道場には近的場も遠的場も設置されているが、通常は今ともえ達がいる近的場を使用している。同時に15人まで的前に立てるこの近的場は故郷の道場のそれの倍は大きく、その前に立つと少しばかり自分が緊張しているのをともえは感じた。
(大丈夫)
目を閉じて小さくそう呟くと、一つ大きく息を吐いた。
立射の構えを取り、弓を引く。右腕にギリギリとした馴染みの負荷がかかってくる。
(いける!)
次の瞬間――ともえの手から放たれた矢は、タンッという小気味の良い音共に見事に的を射ていた。
「お見事」
真弓が後ろから声をかけた。
弓は決して中心を射たわけでは無かったが、それでも長旅直後である事や慣れない環境を考慮すると、ともえの腕は確かなものといえる。
「有難うございます!」
ともえは嬉しそうにそう答えた。やはりともえは弓道が好きだ。弓を握ると体に充足感が満ちていく。
ともえはその後も、何度も何度も弓を放ち続けた。