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はなもあらしも

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「もしかして、あそこが的場ですか?」
「うん、そうだよ。今はお弟子さん達が稽古中なんだ。荷物を置いたら見に行くかい?」
「はい! 是非!」

 瞳を輝かせて頷くともえに、真弓は嬉しそうに前方へ向かって指を差した。

「あの道場を過ぎた所に勝手口があるんだ。お弟子さん達も家の者も、皆そこから出入りしてる。道場に近いから便利なんだ」
「なるほど、門からだと結構距離がありますもんね」

 後ろを振り向いて歩いてきた距離を思い出す。
 と、

「あ、道真……」

 ふいに真弓が誰かの名前を口にした。吊られて顔を前に戻すと、少しくせのある髪をした青年が道場から出てくるのが見えた。

「兄さん……と、そいつ、誰?」

 そいつ―――?
 間違いなく自分の事を言われていると確信し、ともえは少し顔をしかめた。確かにお互い面識はないが、初対面でいきなりそいつ呼ばわりされる筋合いはない。

「那須ともえちゃんだよ。父上のご友人の、那須師範の娘さんだ」
「―――ああ、あんたが……ま、どうでもいいけど、うろちょろして俺の邪魔だけはしてくれるなよ」
「なっ!」

 それだけ言うと、男はさっさと屋敷の中へと消えて行った。

「なんなんですかっ!? あの人っ!?」

 姿を消した男に向かって怒りをあらわにすると、真弓が申し訳なさそうに言った。

「あいつは僕の弟の道真(みちざね)。本当はあんなヤツじゃないんだけど、人見知りが激しくてね……許してやってくれないか?」
「おとっ……って、あの人、真弓さんの弟なんですかっ!?」

 全然似てない! つかむしろ悪! 悪人っ!!
 真弓とのあまりのギャップに、怒りを忘れて驚くともえ。

「ともえちゃんと同じ十八歳なんだ。仲良くしてやってね」
「……うぐっ……努力します―――」

 無理だ。絶対に仲良くなんてなれない! ちょっといい顔してても、あんなんじゃ仲良くなんてなれっこないわ! でも真弓さんを悲しませないよう、表面上は普通に接しよう。うん、そうしよう。

「で、ここが道場でさっき道真が入って行ったのが家の勝手口。そしてあそこが裏口」

 ともえの心の中での決心に反して、真弓は相変わらず優しい口調で教えてくれる。どうやら屋敷の裏手に生活の場が集中しているようだ。
 おまけに勝手口や裏口とは言うものの、どう見ても普通の家屋の3倍はある。何から何まで田舎とはスケールが違いすぎる。

「分かりました」
「じゃあ次は中を案内するよ」

 そう言って立派な勝手口から中に入ると、ばったり一人の少年と鉢合わせた。

「おっ、真弓兄……と、誰?」

 ツンツン頭に大きな瞳の健康そうなその少年は、ともえを見て首を傾げる。
作品名:はなもあらしも 作家名:有馬音文