はなもあらしも
* * *
ゆっくりと門が軋みを上げながら開いて行く。
ギギギギ……
「あ……」
一番最初にともえの目に飛び込んで来たのは、道着を着た一人の青年だった。
そのあまりの凛とした佇まいに、思わず息を飲む。
「あっ、あのっ、わたし三原の那須道場から来ました那須ともえと言います!」
黒髪の青年は一瞬目を丸くして、すぐに微笑んだ。またその微笑みの美しさに驚く。
「ああ、君が父上が言っていた……随分可愛らしいお嬢さんだ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
可愛らしいなどと面と向かって言われた事のないともえは、青年の顔を恥ずかしくて見れなくなってしまった。すぐに頭を下げ、赤くなった顔を見られまいと頭を掻く。
「僕は日輪真弓(ひのわまゆみ)、ここの道場の次男だよ。さあ、どうぞ。中を案内するから」
「ありがとうございますっ」
さり気なくともえを促し、日輪真弓は歩き出した。
スラリと高い身長と、優し気な横顔にともえは改めて感心する。
先ほどの美琴といい、この真弓といい、東京の若者はどうしてこうもあか抜けているのだろう。田舎とは大違いだ。
「ともえちゃん……って、呼んでもいいかな? しばらくここに住むんだよね?」
「あ、はい! しっかりと弓の修行をさせて頂くつもりです。掃除も洗濯も料理も、何でもお手伝いしますのでよろしくお願いします」
“ともえちゃん”と呼ばれた事を嬉しく感じる。真弓は人当たりが良くて話しやすい。
「……修行? ああ、そうだね。うん。頑張ってね」
一瞬間が空いてから真弓がまた笑う。
門をくぐって立派な植木が施された広い敷地を進むと、玄関が見えてきた。こちらも門に負けじと立派な構えで、ともえは心の中で感嘆の声を上げた。
「ここが玄関。でも家の者はあまり利用しないんだ。裏口と勝手口ばかり使うから、ここは来客専用といった感じかな」
「そうなんですか。あ、じゃあ、そのお勝手口の方も教えて頂けますか?」
「そうだね、じゃあこっち」
玄関の戸を開けて中をぐるりと堪能すると、真弓とともえは勝手口へと向かった。普段使用する方を教えてもらった方が、効率がいいと思ったのだ。
玄関を出て屋敷沿いにぐるりと裏手へ回っていると、どこからともなく聞き慣れた音が響いてきた。
「あっ……」
そう、それは矢が的に当たる音で、視線の先に道場らしき建物の姿を捉える事が出来た。