はなもあらしも
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歩く道すがら、ともえは安芸の田舎道場から、腕を磨くため修行にやってきた事を少女に語った。
「安芸とは随分遠い所からおいでなさったんですね。長旅でお疲れでしょう?」
「いいえ! まだまだ歩けますよ!」
「ふふ。元気なんですね」
少女の笑顔に、ともえはまたどこかで鈴の音が鳴ったような錯覚に落ちた。
本当になんと可愛らしい少女だろう。
そして自己紹介がまだであった事に気付き、申し訳なさそうに頭を掻く。
「あっ! ごめんなさい、わたしったら名前も名乗らず」
「まあ、私も失礼致しました」
立ち止まり、改めてお互い向き合って頭を下げる。
「那須ともえと言います。十八になります」
「私は弓槻美琴(ゆづきみこと)と申します、年は十六です。どうぞよろしくお願いします」
丁寧な美琴の挨拶と、見た目通りの可愛らしい名前にともえの頬は緩みっぱなしになった。自分とあまりに対照的な年下の美琴は、育ちも良くて優しい性格であることが全身からにじみ出ている。
「実は、ともえさんが往生していらっしゃる時、遠くでお見かけして弓道をなさる方だとすぐに分かったんです」
「あ、もしかしてこの荷物で、ですか?」
そう言って肩に担ぐやたらと長い物体をチラリと見る。美琴は身振りで矢を放つ動作をした。ともえが担いでいるのは弓道で使う弓と矢だ。弓は弦を外し、細長い布に入れて持ち運ぶ。
「ええ、弟も大事そうにいつも手入れしていますから」
男女で弓の大きさや重さは違うが、さすがにこの長さだ、目立つ事は間違いない。
「あ、弟さんが日輪道場にいるんですよね?」
「ええ、仲良くしてやってくださいね」
美琴の双子の弟だというからには、間違いなく可愛らしいだろう。また自然と笑顔になり頷く。
「もちろんです!」
ともえは幼い頃から父が教える道場で、ずっと弓道の修行を積んで来た。それなりに名の知れた師範である父を尊敬していたが、今日から世話になる日輪道場の師範は父の修業時代の仲間で、相当腕が立つらしい。
幼い頃からよく聞かされていた人物に稽古を付けてもらえるというので、ともえは嬉しくてたまらないのだ。