はなもあらしも
第二話 日輪と笠原 〜前編〜
早朝緊張したまま目を覚ましたともえは、軽い朝食を頂いて片付けを手伝うと、一人道場へと向かった。
どれくらいの時間が経ったか一人精神統一をしていると、誰かが射的場に入って来る気配がしてそちらを伺う。
あ……
やってきたのは道真だった。
チラリと一瞬ともえに視線をやり、すぐに呼吸を整えて構える。その所作はまるで流れるようで、つがえた矢の先は空気をも切り裂きそうに鋭く見えた。
ごくり。と、ともえが息を飲んだ次の瞬間、大きな音を放ち矢は的に命中した。
「お見事」
自然と口に出たともえの台詞に、道真はふとともえを見てすぐにまた視線を逸らした。
なによ、感じ悪いわね……
相変わらずの愛想の無さに少し頬を膨らませていると、次に道場に入って来たのは真弓と美弦だった。
「おや、ともえちゃんおはよう。随分早いんだね」
「おはようございます、真弓さん、美弦君。なんだか目が覚めてしまって、少し射ろうかと思って」
笑顔の真弓の後ろで、とても不機嫌そうな顔の美弦がともえを睨んでいた。
(なんだよ、真弓兄さまと親し気に話してさ。何様のつもり?)
二人の打ち解けた様子を気安いと感じた美弦の眉間には、みるみる皺がよっていく。
「あれ? 美弦君、気分でも悪いの?」
「そうなのか?」
そんな美弦の様子に気付いたともえが尋ねると、すぐに真弓が後ろを振り返る。
「い、いいえ。大丈夫です!」
美弦は笑顔で答えると、さっさと道真の隣りに並んだ。
「大丈夫みたいだね」
「はい、さっき顔をしかめていたみたいだったので……」
少し心配そうな顔をした後、ともえも真弓に続いて美弦の隣へと進んだ。
何本か矢を射った後、後ろを振り返れば随分と人が増えていた。順に練習をするためにともえは下がり、一人ずつの動きをゆっくりと観察して行った。
さすがに天下に名を知らしめた日輪道場の門下生だけあって、皆かなりの腕前である。
全員が一通り練習し終えた頃、幸之助が道場へとやって来た。
――――いよいよ始まるのだ。
って、あれ? そう言えば女の人が一人もいないような……。