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はなもあらしも

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 * * *

 ともえはピリピリと緊張感の走る的場の隅に座し、じっと目の前で繰り広げられている様子を見守っていた。
 日輪道場の門下生には女性が少ないと昨夜幸之助が言っていた通り、月乃を除けばともえを含んでもたった四名しかいなかった。ともえ以外は元々武家の子女で、日輪道場と昔から懇意にしている家柄という事で通っているらしい。
 おまけにともえ以外は全員既婚者で、結婚した後も習慣で道場に来ているだけだという。月乃の話しでは笠原道場には若い女性の門下生が多く、日輪道場にはほとんどいない事を知った上で試合の条件を男女一名ずつにしたのだろう、という事だった。
 良くは知らないが、こちらが不利になるような状況で試合を申し込んで来る笠原道場のやり方に腹が立った。
 と、そう言う訳で半ば強制的にともえが女子の代表に決定したのだが、男子の代表はまだ決まっていない。

「どうかね、ともえさん」

 座っているともえの隣りにやって来た幸之助を見上げ、ともえは四名が並んで矢を射る姿をしっかりと目に焼き付けながら答える。

「はい、真弓さん、道真君、颯太君、美弦君、全員素晴らしいです」
「ふむ。まあ、あいつらは他の門下生よりも練習出来る時間が多いからな。本来なら垂司の奴が適任なんだが……」

 言葉の最後に出た垂司は、昨夜自ら関わらないと宣言している。

「垂司さんはお強いんですか?」
「腹立たしいが、あいつの弓の腕前は私以上だ」
「えっ? 師範以上……?」

 ともえは驚いた。この日輪幸之助をも凌ぐ弓の腕を持っているのに、何故垂司は弓道をやらないのだろう。

「あいつの事は今はいい。それよりともえさん、私が見てもこの四人は甲乙付け難い。女子の代表はともえさんだから、誰か組んでみたい奴がいれば遠慮なく言ってくれないか?」

 垂司の事を考えていると、突然相手を選ぶように言われてさらに驚く。

「えっ!? わ、私が選ぶんですか!?」

 ど、どうしよう……
 もう一度並んで矢を射る四人を見る。
 真弓は足腰がしっかりとしていて、身長もある。そして安定した矢を放っている。道真は真弓程の安定感はないが、その放つ矢には力強さがあり、遠的も得意そうだ。颯太は多少ムラっ気があるが、スイッチが入ったときの集中力は凄まじい。それこそ的の中心に次々と当てていた。最後の美弦は線が細いが真弓に似た安定感があり、的中数もかなり多い。


 一.優しくて安定感のある真弓さんとなら、練習も上手くこなしていけそう。
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 二.道真君なら力もありそうだし、私に無い部分を補って貰えるかも。……もっとも性格は合いそうにないんだけど。
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 三.こっちまで元気にしてくれそうな颯太君と組んだら、今よりもっと上達出来そう。
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 四.可愛いだけじゃなくて的中率も高く、まだまだ伸びていきそうな美弦君と組んでみるのもいいかも。
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 五.垂司さんの事も気になるけど……
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作品名:はなもあらしも 作家名:有馬音文