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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「さよならを言うために」6~9話(完結)

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僕は依子から目を逸らすことは出来ず、依子もしばらく僕を睨んでいたけど、やがて「つまらないものを見た」というように目を逸らして、前を向いてついっと歩いて行ってしまった。それはほんの十秒も掛からない出来事だった。僕はほっと胸を撫でおろしたけど、依子を傷つけただけだったことで僕が得たのは「罪の意識」だけで、「後悔」ではなかったと分かった。“そうだ、僕は依子を見ていなかった。彼女を欲していたわけではなかった。僕の中で彼女は全くの「代わり」で、僕は依子に対してそんな扱いをしたことに罪の意識は抱いても、彼女を傷つけたことで僕の心も痛むようなことはなかった。愛していなかったのだから。”僕はまた自分を“卑怯者”と蔑んだ。



そのスーパーからの帰り道に、ふと思い出したように、ユリのことを考えた。

“そうだ。彼女は母親から拒否された過去を持っている。つまり、全くの肯定をおそらく受けていない。”突然僕はそのことに思い至った。それはおそらく僕が今までずっと、ユリと男女の仲になってからずっと頭の裏側でいつも考え続けてきたことで、今やっと答えが出たのだろう。そして僕は途方に暮れ、自分が間違っていなかったことを知った。

ユリが入院して僕が見舞いに行くとき、僕は“自分なんかで彼女の助けになるはずはないのに”と自分を責めながら病院に向かった。それは間違いではなかった。ユリは「すべてに対する許し」が欲しいのだ。僕はその闇の深さに足が竦む思いをしながら、カゴに乗せたスーパーバッグをガサガサと揺らして、誰も居ない夜の中に、自転車と一緒に吸い込まれて行った。