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短編集84(過去作品)

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 会社に出かけても、仕事をしていて、鏡が目の前にあるような気がしてならない。鏡を見ると、後ろから見られているような気がする。今日に限ってなぜそんな気分になったのか、そして、あんな夢を見てしまったのか分からない。ただ、アーケードのところで見た後姿の「他人の空似」、これがやたらと気になり、考えただけで、気持ち悪く感じる。
「武藤さん」
 鏡を見ていて、ふいに声を掛けられビックリした。
 後ろを見ると後輩が声を掛けてきた。会社でも武藤に少し似ているところがあると自分で思っている男だっただけに驚きも倍だった。
「実は武藤さん、この間あなたとよく似た後姿の人を見かけたんですよ」
 その言葉を聞いた時には少し気分は落ち着きかけていた。言われることを予想していたような気がするからだ。
「追いかけたんですけど、見失ってしまったんですよ。アーケードのある商店街から、住宅街に抜ける袋小路のところで……」
 前を向くと、鏡に写っているはずの自分の姿が消えていた……。

                (  完  )

作品名:短編集84(過去作品) 作家名:森本晃次