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湯けむりの幻

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レンタカーを借りると 新一の運転で小牧インターへと向かい、高速道路に乗った。防音壁の切れ間から 雪を被った山が連なるのを眺めながら走った。
最短ルートで30分弱。関インターチェンジで降りて 目指す下呂市までは、県道58号線・国道41号線を利用して約1時間10分。
新一は、『平成こぶし街道』という名称が気になり、通ってみたかったのだ。

「チャコは、こぶし街道って通ったことある?」
「兄嫁さんが、そちらの出の人だから 一、二度通ったことがあるかな」

下調べ通り たしかに関市と下呂市の県境はほとんど峠状態だった。少々道幅、急勾配が気になるけっこうな山道だったが、新一の普段の仕事が役立つ。どこが道だか けもの道だかわからないような山道も経験している新一は、カーブでチャコの体が傾くのを少し楽しみながらハンドルを切った。
「あ、酔わない?」
「はい、大丈夫です。山道は好きですよ」
「へえ」
「自分で運転はもう嫌だけど…」
「いいじゃない。こうやって横に乗ってお喋り担当でいいよ」
話はしても運転に注意している新一は、チャコの笑みを直接見ることはなかったが そのほんわかと和んでいる雰囲気は感じ取れた。
ふと、道路の崖側のガードレールの切れ間に 多くの花が植わっているのが通り過ぎた。
新一は、減速してルームミラーとサイドミラーで確認した。
春の花々のようだが、こんな場所に自然に生息するだろうか?
いろんな場所の山道を走ってきた新一は、小さな引っ掛かりを感じた。
「きれいな花が咲いていたね」
「そう? こちらからじゃ見えなかったわ」
チャコは、膝に置いた手を軽く握り込んで 山手の方の車窓を向いた。

ほぼ時間通り。
途中、車の止められる場所に停車して 新一はスマホのカメラのシャッターを切った。
景色も 天気も 感動するには余りあるほど素晴らしかった。

作品名:湯けむりの幻 作家名:甜茶