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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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天界での展開

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「例え他の扉が在ったとしても、もう外には出ないで下さい。迷子にでもなると大変ですから。」
「大丈夫だよ。迷子になどならない。」
「・・兎に角、一緒に部屋へ戻りましょう。お願いですからじっと待ってて下さい。」
「お願いされたんじゃ仕方ない。あんたの言う通りにじっと待つよ。」
「その様に素直になって下さい。こう見えても私は忙しい身ですから。」
「分かったと言ってるだろう。」
「あっ、そうだ! 危うく忘れるところだった。一二三院四五六居士さん、閻魔様がお呼びです。部屋に戻ったらすぐに閻魔様の元へ急いで下さい。」
「急げったって、閻魔が何処に居るのか、俺は知らない。」
「あ、そうでしたね。では、私が案内いたしますから・・」




入口で


「失礼をば致します。お呼びの一二三院四五六居士を案内して参りました。」
「はい、ご苦労様です。あとは私が閻魔様に会うに際しての注意事項など説明して、この方を案内致しますので・・」
「はい。どうぞ宜しくお願い致します。では、私はこれで・・」

「一二三院四五六居士さん、ご苦労様です。これから閻魔殿で閻魔様にお会いになる際の注意事項を2~3申しますので、よく聞いて下さい。」
「はい、はい。」
「返事は、1回でお願いします。」
「はい、はい。」
「・・返事は、1回と言った筈ですが・・」
「あ、そうだったな。はい!」
「結構ですよ、その調子で・・」
「はい、はい じゃなくて、はい!」
「・・・まず閻魔殿では、閻魔様かそのお付きの方から問われた事だけ簡潔にお応え下さい。」
「カンケツって、どういう意味だい?」
「・・簡潔をご存知ないのですか?」
「缶とケツなら知ってるけど、纏めて缶ケツは知らない。」
「・・カンケツとは、手短かではっきりとしている という意味です。」
「なるほど・・分かった。下らない事をクドクド言うなってことだな。」
「その通りです。申請書には、あなたは、少々知能が低いと思われる と備考欄にありますが、普通の理解力はお持ちの様ですね。」
「言い難いことを、はっきりと言ってくれるじゃないか。それよりも腹が立つのは、あの最初に応対した男だ。一体いつの間に、そんなことを書いたんだ・・」
「お腹立ちは尤もですが、これは審判をスムーズに進める為の書類ですから。それに、この書類にどの様な内容が書かれていても、閻魔様は、その真偽のほどは即座に見抜かれますから安心して下さい。」
「お姉さん、いい加減な事を言っちゃ駄目だよ。閻魔さんに舌を曳っこ抜かれるよ。閻魔にそんな凄い能力があるのなら、改めて申請書など要らないだろう。紙の無駄使いだ・・、そうだ! 俺はこれから閻魔に会うんだよな?」
「はい。」
「それなら、例え紙っ切れ1枚と雖も無駄使いは止めろと、良い機会だから言ってやろう。良い考えだろ?」
「とんでもないことです! それに、閻魔様を呼び捨てにするなど、神仏をも恐れぬ大罪です! 決して許せることではありません!」
「何を怒ってるんだ。俺は、生きてた時、人はみんな平等だと習ったぞ。此処が何処だか知らないが、あんた等、偉そうに俺をバカ呼ばわりする割には遅れているんだな。」
「此処は、天界の入り口です。人間界とは違って、それぞれの役職を敬い『様』を付けて呼ぶのです。」
「そうかい、そういうことなら、俺がこの目で閻魔とやらを見て、その上で『様』を付けて呼ぶかどうか決めてやる。」
「何という不遜な態度なのでしょう! 捨て置けませんよ! 今の言葉を取り消しなさい!」
「ギャーギャー喚くなよ、姉ちゃん。」
「ね、ねえちゃんですって? 私には、清簾という閻魔様から頂いた名前があります。この胸に在る名札が読めないのですか!」
「ちゃんと備考欄を見ろよ。俺に漢字など読めるかよ! だがな、漢字など読めなくても、生まれてから必死で働いて、働いて、またまた働いて、一生懸命に家族を養って来たんだ! 苦しい時には、真面目に嘘を吐かず生きて行けば、天国で夢の様な生活が出来ると安心寺の和尚さんが言うから、それを信じて頑張って来たんだ。和尚さんは、『死んで閻魔さんに会う時は、閻魔様と呼ばなきゃならない』など、一切言わなかったぞ。ははぁ~~分かったぞ、お前等、人間界の和尚さんと裏でコソコソ話して、俺が死んで此処へ来たら思いっ切り苛めてやろうと手ぐすね引いて待ってたんだな。そっちがそうなら、俺だって考えがある。や~~めた・・、閻魔に会うのをや~~めた。じゃあな、姉ちゃん・・」
「あっ! 待って! 待って下さい・・」
「待たないね。」
「待って下さい! 罪になりますよ!」
「罪、結構だね。どうせ何だかんだ言った後、俺は地獄へ行かされるんだろ?」
「そんなこと未だ分かりません。閻魔様の決済が下りない限り、地獄へも極楽へも行けません。」
「えっ、そうなの? ・・それは、良い事を聞いたぞ。このまま此処から逃げて、捕まらなければ好いってことだな。極楽にはちょっと魅力を感じないこともないが、行きたくない地獄に行かずに済むことでチャラになったと思い直して、俺は、閻魔に会わないと決めたぞ。」
「それは、困ります。」
「俺は、困らない。」
「・・・」
「・・」
「一体、何の騒ぎです? 外が煩くて、閻魔様の執務が捗りませんよ。」
「あっ、第一秘書様・・ 申し訳ありません、この一二三院四五六居士が、閻魔様に会わないと拗ねて帰ろうとするものですから、つい大声で・・」
「そうですか・・ あなたが、一二三院四五六居士ですね?」
「死んでホヤホヤの者は、此処には俺しか居ないだろ・・ あんたは? 人の名を気安く呼ぶあんたは、一体誰だい?」
「これは、失礼。私は、閻魔様の第一秘書の純真です。あなたは、何故閻魔様に会いたくないのですか?」
「何故って、考えてもみろよ、生きてる間は一生懸命に働いて、こんな俺でも惜しまれて事切れて、タイマイな葬儀代を払って、やっと此処まで来たんだ。だがな、来てみれば此処の奴らは、やれ漢字が読めないとか文字が下手だとか、あっちへは行くなとかで、此処に連れて来られれば、規則だとかどうとかで、学の無い俺にとっては、とっくに地獄の苦しさにも等しい扱いを受けている。それで、イライラし始めたところに、この姉ちゃんが、閻魔さんのお言葉が無ければ地獄にも極楽にも行けないなどと言うから、もうどちらにも行かないで、俺の勝手にさせて貰うと言ってたところだ。煩くしたのは謝るが、人には、それぞれ個性ってものがあるんだ。生きてた頃は、その個性をみんなが認め合って、仲良くやってたもんだ。あんた等も、時には人間界に行って、庶民の暮らしぶりなど見聞きしたらどうだい? そうすれば、死んで間のない者の扱いなど大いに参考になると思うよ。僅かな時間で判断など出来ないが、あんた等は、井の中の蛙だ。」
「はっはっは・・ なるほど・・そうかも知れませんね。・・兎も角、一度閻魔様に会ってから、今後どうするか決めたらどうでしょう?」
「・・それもそうだな。此処まで来て、扉1枚向こうの閻魔さんが怖くて逃げだしたなどと誤解されると困るからな。」
「では、私が案内します。こちらへどうぞ・・」

作品名:天界での展開 作家名:荏田みつぎ