小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天界での展開

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
初めての


「ようお越しになられました。」
「なんだい、普通の人間じゃないか。」
「はい、普通の人間ですよ。それが、何か・・?」
「いや、別に・・・」
「さあ、どうぞ、其処の椅子にお掛けなさい。私は、此処で、皆さんの持って来た書類のチェックをしている者です。不明な箇所など有った場合、私が、書き加えますので・・・。記載漏れや、虚偽の申告などが有ると、後でご希望に添えない場合も有りますので、出来るだけ正直に答えて下さい。」
「・・・・」
「宜しいですか?」
「ああ、好いよ。」
「まず、生前の名前は?」
「権藤権蔵。」
「生前の住所は?」
「広島県大山市中山町小山一二三の四の五の六。」
「死亡年月日は?」
「・・・忘れた。だが、つい最近だ。」
「つい最近の事を、忘れたのですか?」
「はい、忘れてます~。適当に書き込んでも構わないから。」
「そういう訳には行きません!・・・まあ、他の質問を先にしますから、思い出したら何時でも言って下さい。では、あなたの戒名は?」
「あっ! つい急いで死んだものだから、付け忘れてるぞ。」
「戒名を持たない死人なんて、あなたが初めてですよ。」
「そうかも知れないが、無いものは無い。あんた、ちょこっと考えてくれないか?」
「・・・仕方のない人ですねぇ・・・腱鞘院緯忠居士(けんしょういん・いたたこじ)ではどうでしょう?」
「ああ、それでお願いします。」
「はい。それでは今後、書類などに署名が必要な時には、この戒名を署名欄に書いて下さい。」
「えっ? ・・・じゃあ、もっと簡単な奴にして下さいな。俺は、漢字は殆ど書けない。」
「えっ? あなた、学歴は?」
「自慢じゃないが、高校では、他の奴らは三年しか勉強しなかったが、俺は、みっちり四年も勉強した。」
「それは、落第したという事でしょう! ・・・あ~、もうしょうがない、あなたの書ける範囲の文字で適当に考えて、この戒名変更申請書に新しい戒名を届けて、最後に今まで使った戒名で署名して提出して下さい。」
「今までの戒名と言っても、つい今しがた、お前さんが勝手に付けた名じゃぁないか。覚える暇など無かったし、そんなの書けるか!」
「一応規則ですから、その通りにして頂かなければ・・・。取り敢えず、新しい戒名を考えてください。」」
「分かったよ。それで、戒名は、ひらかなでも好いのかい?」
「ひらかなの戒名など、前例がありません。」
「だから、俺が、最初ってことで良いだろう。」
「最初も何も、前例がないという事は、ひらかなは、認められないという事です。」
「分かった。今、考えるから、ちょいと待ってくれ・・ええと・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあ、出来たぞ。」
「随分、時間が掛かりましたね。・・・至極手間取った割には単純極まりない名だし、恐ろしく下手な文字ですね。だが、まあ、良いでしょう。新しい戒名は、一二三院四五六居士ですね。」
「そうだけど・・・何か?」
「いえ、結構です。それでは、今後これが、あなたの此処での名前になります。これより、閻魔殿に行く様になるのですが、そこの受付に、この審判申請書を提出してください。」
「はい、はい・・」


「あ、そこの挙動不審な方、受け付けは、こちらですよ。」
「そうかい。何しろ、初めてなものでね。」
「ここに来る者は、誰でも、初めてです。申請書は、有りますか? ・・・あれ、もう戒名を変えた前歴が有りますね。」
「そうだけど・・、いけないかい?」
「いえ、別に・・何度変えても結構なのですが・・・。はい、申請書に記載漏れは無い様ですから、受理します。代わりに、番号札を渡しますから、この番号が呼ばれるまで、待合室でお待ちください。・・・・あ~、待合室は、そちらではありません。そこは、審査結果を待つ人の部屋です。ドアに101号と書いてある部屋で、お待ちください」
「何処でも好いだろう?」
「いいえ、此処は、秩序を重んじる処ですから、何処でも好いなどという訳には行きません。」
「はいはい・・・。ところで、審判の結果が分かるまでに、どのくらい掛かるんだい?」
「ご安心ください。普通の場合、初七日までには結果が分かりますから。」
「地獄行きか、極楽行きかの審判を待つんだぞ。安心などしてられるか。しかし、七日も待たねばならないなんて、随分と手間取るんだなぁ。」
「今後の行き先を決める重要な審査ですから、精査に精査を重ねますので・・」
「そうかい、まぁ好いや。待てば海路のなんとかというからな。」
「あっ、此処は禁煙ですよ! 入口に大きな文字で書いてあったでしょう。気付かなかったのですか?」
「ああ、あれか・・赤色で大きく書かれていた文字だな?」
「そうです。まさか見えなかったなどと言わないで下さいよ。」
「バカにするな! こう見えても目は良い方だ。」
「じゃあ、禁煙が分かっているのに煙草に火を点けようとしたのですか? 審判が終わるまでの此処での行状も審査対象になりますから、今後は気を付けて下さいね。」
「あんた、俺の話を聞いていたのか?」
「聞いていたのかって、いきなり何ですか?」
「俺は、文字が見えた と言っただけで、読めたとは一言も言っていない。あんな難しい漢字が読める訳などない。さっき渡した申請書に書いてあるだろう、俺は、漢字が殆ど読めないんだ。」
「・・・あぁ、そうですね、確かに備考欄に書いてあります。失礼しました。」
「分かれば良いんだ。今後注意する様に・・、ついでに話し言葉もひらかなにして貰えると有難い。」
「話し言葉に漢字もひらかなもないでしょう・・・兎に角101号室で待っていてください。」
「はいよ。」


「一二三院四五六居士さん・・・、一二三院四五六居士さぁん・・・・、イチ・ニ・サン院シ・ゴ・ロク居士さ~~ん! ・・・居ませんか?・・・何処へ行ったんだろう・・・・此処でお待ちの方々にお伺い致します、先程この部屋へ入って来た、ただ図体ばかり大きくて、な~~んにも考えていない様な薄ら惚けた感じの人を見ませんでしたか?」
「ああ、そいつなら、さっき入って来てそのまま歩いて部屋を突っ切って反対側の扉を開けて出て行ったぞ。」
「えっ? そりゃ大変だ。ありがとうございます・・」

「・・あれ~~? 何処に消えちまったのかなぁ・・まったく世話の焼けるお方だ・・。・・あっ、お~~い! 一二三院四五六居士さ~ん!・・・一二三院・・あっ、自分の名前を忘れているのかも・・お~~い!・・お~~~い! 止まれ! 止まってこちらに振り向くんだ!」
「・・? 俺の事か? 俺を呼んでるのか?」
「そうです、そうに決まってるでしょ! 此処には、あなたしか居ないんですから。」
「俺だけしか居ないだと? 俺の他にもう一人、お前が居るじゃないか。」
「・・・私は良いんです。」
「それを早く言いなよ。」
「あなた、審査が終わるまで101号室で待つ様に言ったでしょ?」
「うん。」
「それなのに何故外に出るんですか。」
「それはだな、入る時に使った扉の他にもうひとつ扉が在ってだな、あの扉は何処へ繋がっているんだろうかと気になって、つい出てしまった。」
作品名:天界での展開 作家名:荏田みつぎ