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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「さよならを言うために」1~5話

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僕はその言葉になんと返せばいいのか知らなかった。だから、「そっか…」と、なるべく言葉に重みがあるような風を装うことしか出来なかった。

「ね、外出できるようになったらさ、また「海賊」行かない?ここから近いし!」

「え、ええ?いいの?」

確かにここは僕たちがよく行った「海賊」からあまり離れていない。その気になればバスと電車を使って行けそうだった。でも、友人を伴っての外出なんてしていいのか、近親者が付き添うのが真っ当なんじゃないかと、僕は少し迷った。

「大丈夫、大丈夫」

「そっか。じゃあ今度行こう。外出できるようになったら教えてよ」

「うん、退院するにはまず外出からやっていくみたいだし、そんなにかからないうちにできるよ」

ユリは今からその日が待ち遠しいというように、また嬉しそうに笑っていた。僕はなんとなく、“もしかしたら具合が悪いのを無理して笑っているというよりは、退屈が晴れて笑ってくれているのかな。”とちょっとだけ思った。


僕が病棟から出て行くとき、ユリは病棟の出口に近寄らせてもらえず、看護師は何度も後ろを振り向いてユリが出口を見守っているだけなのを確認し、僕を外に出してくれた。それから帰る道々僕は考えた。“彼女は、病の床にも僕を招こうとしてくれた。僕とユリは友人関係だけど、僕はこれからずっとユリを見守ることにしよう。彼女が泣く日があるならいつも僕が駆けつけられるように。泣いてはいなくても、本当は泣きたいんだろうユリの近くに居られるように。誰も居ないよりは、マシだろう。”そう考えて、僕はもう一度、自分の気持ちに蓋をした。


でも、結局僕はそれを口にすることになる。それはその日からたった二カ月後のことだった。