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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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「さよならを言うために」1~5話

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明けて翌朝、またユリから電話があった。

「はいはい…おはよう…」

僕はまだいくらか眠っているような頭を起こしてスマートフォンを充電コードから外し、電話を取る。電話の向こうのユリはもうしゃっきりと起きているようで、「今日が暇なら会わないか」と持ち掛けてきた。僕はその朝は少し体調が悪かったし、でも仕事はなかった。明日からは四日連続で生徒の家を回って勉強を教えなくちゃいけないけど、今日はちょうど空いていた。

「うん、じゃあ、ペンギンの前ね。ごめんね、遠くまで来させちゃって。うん、じゃあまた」

そう言って電話を切り、僕はもう一度眠りに戻ろうとしたけど、結局ユリと決めた夕方までそわそわと落ち着かず、食事すらしなかった。





駅前のペンギン像は相変わらずにこにこと笑顔で立っていて、この雑然とした街の中で子供のように無邪気に見えた。僕はジャケットの前を閉めて、寒い北風が吹く中でユリを待っていた。寒いはずなのに体がポカポカと温かく、それなのにすでに痛み始めている胸を抑えて、僕は何度も改札を振り返った。でもしばらくまた前を向いて立っていたとき、後ろから「とたたたっ」と軽い足音が駆けてきて、僕が驚いて振り向くと、ユリがこちらに走って来るところだった。僕はそのユリの姿にびっくりして、彼女が目の前に立ったときも、しばらく何も言えなかった。

ユリはあの頃と変わらず髪は短かったけど、それは艶やかになびいていた。それから、おそらく学校の制服なのだろうスカート姿でしなやかな足を晒し、前とは全然違う軽やかな足取りと、心底喜んでいるような表情でこちらへ近づいてくる。それは元々美しいユリが一番美しく見えるようにと、誰かが気を遣ったように見えた。

「どうしたの?」

何も言えないでいた僕を見てユリはちょっと不思議がったけど、「いやいや、あんまり美人になったからびっくりしたんだよ」と、僕はわざと冗談めかして言って、その場を凌いだ。

「そんなことないよぉ。じゃあ「ハーベスト」に行く?あ!それと、今日は割り勘ね!私、バイト始めたから!」

そう言って得意げに胸を張ってみせるユリは可愛らしかったけど、僕は「ダメだよ。ここまで来るのに結構お金掛かるでしょ、東京からだもの」と言って聞かせた。