小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「さよならを言うために」1~5話

INDEX|13ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 



夜、寝る前になると、いまだに友達登録だけはされたまま、なんの連絡もなくなったユリとのメッセージ画面を見る。それが僕の日課だった。もうそらんじることが出来るほど、僕は一つ一つを噛みしめた。ただの「おやすみ」や「今日ヒマ?」を、何度も何度も読み返し、そして“今にまた同じようにユリから連絡がありやしないか”と望む心、そして、“そんなことが起きようはずがない”と冷めた頭に僕は真っ二つにされ、ときたま涙を流した。でも、いつまでそんなことをするのも、体力の限界だった。その頃僕はもう四十七になっていて、ユリと出会ってから四年が経っていた。

僕はその晩もそんなことをしてから、ビートルズが演奏するロックのスタンダードナンバーをスマートフォンで聴いた。それは、ユリから電話が掛かってきたときの着信音に設定してある曲だった。“ギター小僧だった頃にはよくビートルズを演奏したもんだ。”そう思い、ユリとの話を思い出す。ユリはビートルズも聴いたことがあると言って、僕がジョン・レノンについて語ったとき、興味深げに耳を傾けてくれていた。

スマートフォンをパーカーのポケットに放ってビートルズをイヤホンで聴いたまま、僕は立ち上がって台所へ行った。空腹だったのだ。シンクの上にある戸棚の中から袋麺を取り出して、コンロの上にほったらかしの鍋に水を汲み、湯を沸かそうとした。そのとき、イヤホンから流れていた曲が急に初めに戻って、僕はびっくりした。

「なんだ?」

思わず独り言を言ってスマートフォンをポケットから取り出すと、画面には「藤田 百合 着信」とあった。

「ええっ!?」

また独り言で叫ぶと、僕は慌ててイヤホンを外し、画面を上へとスワイプさせて電話を取る。恐怖に近いほどの喜びが襲い、僕の手は震え、声だって抑えが利かないかもしれなかった。でも、スマートフォンからはまだ何も聴こえてこなかった。

「…もしもし?」

「久しぶり!元気?」

それはやっぱり、間違いなくユリの声だった。僕は涙が込み上げて大泣きしたり声が震えてしまうのを抑えて、「本当に久しぶりだね。どうしたの?」とだけ返した。電話の向こうのユリが一瞬ためらっているように、ちょっとの間があった。

「いやー、こっち来ていろいろあってね、高校とか忙しかったから連絡しなかったけど、どうしてるかなーって思って」

“どうしてるもこうしてるも、毎日君のことを考えてたよ。”よっぽどそう言いたかったけど、言えなかったから、「なんとかやってるよ、高校はどう?」と聞いた。

「うんー、そろそろ卒業!だーれも友達出来なかった!」

そう言ってユリは電話の向こうで笑っている。僕は、ユリがどんなに美しくなったかを想像した。

「まあそういうこともあるけど、残念だったね」

「そうでもないよ。いじめられなくてよかったくらいにしか思ってない」

「うーん、まあね」

僕はそんな話をしながら湯を沸かして袋麺を茹で、しばらくユリと話せる喜びに浸った。ユリの声は少し大人びて、前よりもずっと快活に響いた。彼女が笑顔で居るのが分かる。それは喜ばしいことのはずなのに、僕は電話を切ったとき、ユリと別れた直後よりもさらにユリを遠くに感じた。


“ユリは新しい生活をすんなりと受け入れて、そこで愛され、そして以前のように悲しんでばかりだった日々を抜け出した。もう僕とは違う世界に生きているんだ。なおさら僕はユリに近づくべきじゃなくなった。僕みたいな奴がユリに近寄ったところで、ユリはなんとも思いやしないかもしれないし、もうユリに慰めは必要ない。僕はユリにとって、なんの意味もなくなった。”、僕はそう思って、具も何もないラーメンをすすってから、酒を飲むのも忘れて布団に包まった。

ユリは「また遊ぼうよ!」と言ってくれたし、「そうだね、暇なときにでもおいでよ」と僕も言ったのに、僕は“またあの地獄のような苦しみがやってくるかもしれない。彼女に対して自分を偽らないといけない時間がやってくるのかもしれない。恋など打ち明けられる立場ではないし、僕はもう必要ですらないんだから、僕はユリに触れられないまま彼女の美しさを見せつけられて、自分を抑え込むだけの日々がやってくるのかも…。”と、ぐるりぐるりと布団の中で迷っていた。その晩はなかなか寝付かれなかった。