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狐鬼 第一章

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「私、「式」とかって苦手~」

其の言葉通り

此処ぞとばかりに悪巫山戯をしてくる
ちどりを何とか遣り過ごしつつ始業式は恙なく終了した

其の後、授業がない為
帰宅部の彼女は帰り支度をし始める

急ぐ必要はないと思うが
寝坊で置いてきた白狐の様子が気になった

あの日以来、しゃことの関係は付かず離れずだ

目下、遊びのお誘いが来る事が頭痛の種だが
其れでも朝一番の突撃がなくなっただけでも自分達には快適だった

白狐は日がな一日、屋根の上で過ごしている
気が紛れるのなら構わないが、余り思い詰めて欲しくない

巫女を追いたいのに
巫女を追えないのは白狐のせいじゃない

今は「彼」を待つしかない

其れは「始まり」で「終わり」なのかも知れないが
其れでも今は「彼」を待つ以外ない

途端、震え出す通学鞄を掴む右手を同じく震える左手で包み込む

唇を噛み締める
彼女が切り替えるように其の頭を振る

「いい子に」、か如何かは分からないが
お留守番をしていた御褒美にお土産でも買って帰ろうかなあ

何がいいかなあ
何でも食べるのだから何でもいいんだけど迷うなあ

迷う時は自分が食べたいモノだ

次から次へと候補に浮かぶ
甘味品に、ほくほく顔になるも余計に迷い始めた
彼女を、ちどりが捕まえる

「すずめ、久し振りにお茶してこう~」

そう提案する割には部活に行く気満満
水泳用鞄を肩から提げている、ちどりを振り返り察した

正確には「部活帰り」久し振りにお茶してこう~、だ

思えば入学早早、部活動見学に行った
長水路の競技用プールを有する、屋内水泳場

二階、三階部分、階段状の観戦席に案内された
目の前の、壁一面の硝子張りの窓から射し込む日光が柔らかくて心地良い
其の開放的な空間に二人同時に息を吐く

老朽化した、屋外水泳場の取り壊しを余儀無くされたとはいえ
随分と張り込んだものだ

故に結果を出す事を期待される(であろう)、水泳部員達は
相当な精神的圧力だろうなあ、等と裏事情を勘繰り
勝手に同情する自分の横にいた筈の、ちどりが何時の間にかいない

見れば、案内役の男子水泳部員の後を追って
階下の通路へと駆け降りている

気を利かせて、自分は観戦席の椅子に腰掛けた

彼の隣で、手摺りから身を乗り出す
彼女が一階、競技用プールで水飛沫を立てる部員達の姿を見て
「すご~い!」と、声を上げる

花形種目である自由形は圧倒的速度と迫力が魅力
撓やかな腕運びで優雅に水面を滑る背泳ぎ

力強く、生き生きと躍動する泳法を魅せる
其の名の通り、羽搏く蝶の如き美しさの蝶泳ぎ

そして平泳ぎは如何に水の抵抗を制するかが重要な種目

各各の実力が拮抗する、強者揃いの中
細密な迄に己の技術を磨き上げ共に切磋琢磨する、好敵手達

全ての競技、勝負に於いて共通する事だ

等と熱く語り出した、案内役の男子水泳部員は
彼女の「すご~い!」を、賛辞と受け取り屈託無い笑顔で応える

「すご~いよね~!」

見事に射抜かれた

見事に心を射抜かれた様子の彼女は
ポニーテールの毛先を両手で弄りながら、含羞む

此れは嫌味ではないが
其れでも嫌味に聞こえてしまうのは仕方がないが

彼女は勝ち気で自分の容姿に自負を持っている
故に「含羞む」此の姿には二度と御目に掛かれないかも知れない

抑、部活動見学の切っ掛けは入学式直後
在校生に依る部活紹介だ

水泳部代表として
講堂の壇上に颯爽と上がるや否や
軽妙洒脱に述べた目の前の案内役、男子水泳部員に一目惚れした
彼女が自分に付き添いを頼んだ結果、今に至る

変な所、乙女だよね

始め、部活動見学を受け付けた
女子水泳部員が案内役を買って出てくれたが彼女は断った上
事も有ろうか、彼を見付けて指名した

其の、積極さがあるなら付き添いは不要だろう、とは思ってしまう(笑)

第一印象といい
第二印象も文句無し、彼の男子水泳部員目当てに
即入部を決めた!と、いっても過言ではない

唯、中学時代
陸上競技をしていた彼女は程程の成績を収めていた為
勧誘を断られた、陸上部は嘆声を漏らす

逆に、其の経歴を知った水泳部は歓声を上げた

故に期待の新人部員だ

自分が彼女の立場だったら
確実に精神的圧力に圧し潰される自信がある
等と、戦くも「勝ち気」な、ちどりだから為せる業なのかも知れない

「勝ち気」とは
何事にも一途に取り組む気持ちだと、自分は思う

不満もないが満足もない
自分自身、見習いたいが彼女の合格点は高過ぎる

其れでも側にいるだけで
何故か「勝ち気」を分けて貰えるから不思議だ

抑、入学式で偶偶、隣同士になった
初対面の自分に恋の手助けを依頼してくる奇特な人等
然う然う、いないだろう

「だね!、久し振りにお茶しよう!」

「決まり!、行こ、行こ!」

満面の笑みで燥ぐ、ちどりが自分の手を掴む
釣られて握る、其の手の温もりを感じながら引っ張られて、ついて行く

ああ、ずっとこうしていたい
ああ、ずっとこうして、ちどりとだけ過ごして生きたい

迷う事なく
恥じる事なく素直に、そう言えたら良いのに

分かってる、今だけ
分かってる、今だけこうしていたいだけ

自分は巫女だ
自分は巫女の役目を果たす

分かってるから

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫