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狐鬼 第一章

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時時、ある
時時、母親は一人で買い物に行く日がある

「一緒に」と、懇願しても
自分に甘甘の母親が頑として首を縦に振る事はない

唇を尖らす少女は仕方なく送り出す

毎度の事だが

後ろ髪を引かれる思いで何度も振り返るくらいなら
自分も連れて行けばいいのに、とは思う

「いい子で待ってるから!」

何度も振り返るものだから
砂利道の小石に躓く、蹌踉めく母親の背中に向かって叫ぶ

少女の言葉に微笑む母親が足早に遠ざかる
取り敢えず先の角を曲がる迄は手を振って、そうして諦めよう

毎度の事だ

項垂れ母親の突っ掛けを引き摺り、歩く
開けっ放しの玄関引き戸を締めると螺子をくるくる締め、錠をする

偖、母親が帰宅する迄、何をしようか

小さ目の卓袱台には絵本やら塗り絵やらが散乱しているが
最近のお気に入りは、此の御伽話だ

そうして色鉛筆箱の下から引き摺り出す、古惚けた本

燻む無地の表紙を開けば所所、擦れた文字
幼い自分には読めない文字で溢れているが内容は完璧だ

母親に何度も読んでもらったし
頁を捲る、描かれた挿絵を眺めるだけでも楽しい

此れは狐を従える、主人公の物語りだ

本の上に顎を乗せる少女の指が
少し癖のある黒緑色の髪を優雅に靡かせる主人公を撫でる

狐に魅入られたのか
狐に其の命すら捧げてしまう、主人公

母親は、そう説明したが幼い自分には良く分からない
何が分からないのかも良く分からない

唇を尖らせ暫し考えるも矢張り、良く分からない

咽喉の渇きを感じた
少女が本に目線を落としたまま前方に手を伸ばす

湯呑を掴む、其の手に何かが絡み付く感覚に少女は目を向ける

其処には拳大の蜘蛛が這っていた
脚を入れた全身ではなく、頭胸部、腹部だけで其の大きさだった

頭部の触肢が角のように鋭く伸びて
顔は人面、其の物だ

眼が合った瞬間、顔の半分以上を歪めて笑った

不意打ちを食らうも湯呑事、何とか振り払う
だが、何時もなら此れで消えていた蜘蛛が何故か、消えない

消えない所か

「 し ゃあ ぁぁぁ  しゃあ ああ 」

と、威嚇の声を上げた
刹那、飛び掛かる蜘蛛に少女は抵抗すら出来ずに目を剥く

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫