狐鬼 第一章
出会いは昔
片田舎の町外れ
鳥居すら疾うに朽ちた、果てた社に足を運んだのは母親だ
朗らかな印象とは裏腹、心痛な思いを抱えていた
何を願う?
何を願うのか?
留守を預かった社で山中無暦日如く暮らしに少少、飽きていた
母親の願いに耳を傾ける
母親の娘を思う、願いに耳を傾ける
そうして帰り際
買い物袋から取り出す、袋入り油揚げ
御丁寧に開封して置いていく、其れに舌鼓を打つ今日此の頃
六畳二間、平屋造りの一軒家
猫の額程の庭には一畳程のお手製の家庭菜園がある
数日前、蕃茄の春植えを終えたばかりのようだ
興味本位で訪ねた、庭先
近寄る縁側に置かれた、笊の上
陳皮なのか、程程の蜜柑の皮が乾燥中だった
一欠片、摘まみ口に放る
稍、苦味はあるが爽やかな柑橘の香りには甘味すら感じる
「美味いかも」
もう一欠片、と
摘まもうと手を伸ばした瞬間、奥から物音が響いた
怯えていた
怯えていたんだ
唯、其れだけの事だったんだ
卓袱台の上、転がる湯呑
黒紅色の目を見開く少女は身体を竦めるも、其れ以上は動けない