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狐鬼 第一章

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「彼奴、如何にかならないか?」

地元に戻って来た
彼女の一日は白狐の顔面を拝む事から始まる

寝台で仰向けに目覚めた彼女の頭上
壁から突き出た白狐の頭は宛ら「狩猟戦利品」の如く有様だ

壁際に設置される寝台の為
白狐の身体は部屋の外所か、家(建物)の外に出てしまっている

想像すると何とも間抜けな格好だが其れは何時でも退ける身構えだ

白狐の言う、「彼奴」とは
彼女の、部屋の前で扉下の隙間を執拗に引っ掻きながら
吠え続けている、小型犬「しゃこ」の事だ

しゃこは毎日の日課
母親との、朝の散歩を終えるや否や
一目散に自室の扉に張り付き、ご近所迷惑も顧みず吠え続ける

携帯電話の目覚まし設定よりも前に起こされる
毎日に寝不足気味だが仕方ない

全ては一家の一員として家族を守る為の行動だろう

彼の額の第三眼が放った
閃光弾で消滅した自身の携帯電話の代わりに
父親から譲り受けた、お下がりの携帯電話を起動して設定を一旦、切る

寝台から這い出る彼女が
其のまま床を四つん這いで進み、取っ手に手を伸ばす其の扉を少しだけ開く

一度、寝惚けた頭で何も考えずに扉を全開にした結果
寝台で寝ていた白狐目掛け突撃を噛まされて以来、慎重になっている

危機一髪、天井に跳ね上がり逃れた
白狐は其の後暫く、姿を見せなくなり彼女は気が気でなかった

勿論、遠くに行ける訳ではないが

透かさず開いた扉の隙間から前足を突っ込む
しゃこに自分の無事を伝えるように彼女は握手を交わす

「ありがと、しゃこ」

家族の安否確認に満足したのか

しゃこは「わん!」
と、返事を返すと勢い良く、階段を駆け下りて行く
元気潑溂、居間に飛び込めば母親が用意した朝食に舌鼓を打つ

跪いたまま、扉を閉める彼女が静かに項垂れる

しゃこの縄張り意識?は厄介だが
朝一で家族全員の安否確認が済めば納得するのか
日中は大人しく階下で過ごす

母親は尚の事、父親も早起き故
安否確認が苦痛なのは朝寝坊の自分と白狐だけだ

ならば早起きして
しゃこの安否確認を済ませればいい、という単純な話しではない

「彼奴は俺を敵視している」

其の言葉通り
白狐が自室にいる限り今日も今日とて、しゃこは突撃を噛ますのだ

一度、二匹?の仲を改善しようと提案したが
具体的な対策等、思い付く筈もなく殆、呆れた顔で一蹴された

「ごめんなさい」
「如何にもなりません…、多分」

項垂れたまま謝罪する
彼女に壁掛けの「狩猟戦利品」事、白狐が素気無く言う

「唯の愚痴だ」

気にするな、という事なのだろうが気分は沈む一方だ

地元に戻って、数週間
肋骨の傷は癒えてきたが罰として自分には外出禁止令が発動した

お下がりの携帯電話から改めて連絡先を知らせた
ちどりから退屈であろう自分へ連日連夜、慰めのメッセージが来る

彼女自身、部活動で忙しいのに有難い

溜息と共に見上げる、扉のフックハンガーには
クリーニング店から返って来たのか、制服がビニール袋に包まれている

母親には「直ぐにビニール袋から出しなさいね」
と、注意されていたが忘れていた

其れでも立ち上がる気力の湧かない
彼女を余所に無情にも過ぎていく、夏休み

其れはいい
其れは自業自得だから、いい

問題は此の焦燥感だ

母親の手前
結局、神社に立ち寄れなかった事が辛い

其の事に対して
白狐が何も言わない事が辛い

「、あの」

思い切って振り返る、其処に白狐の姿はない

日がな一日、屋根の上で過ごす
其れが白狐の日課だ

切っ掛けは、しゃこの突撃から逃げた際
天井に勢い良く飛び込んだ白狐は家の屋根迄、突き抜けた

其処で延延と見渡す景色を前に
神狐である、白狐の眼には見えたのかも知れない

酷く慕わしい、朱い鳥居が見えたのだろう

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫