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狐鬼 第一章

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際限無い、深い霧の中

朱い鳥居に朱い提灯
檜細工の格子宮が薄ら浮かび上がる

丸で神棚の稲荷社

入口の格子扉は固く閉じられていて
時折、其の奥からは幾つかの声が漏れてくる

「みや狐が、例の社を後にしたようだ」

声の主は意見を求めている口調ではなかった
唯、事実を報告したに過ぎない

奥行きの無い、外観とは違い
格子宮の内部は座敷が止め処なく広がる

其れでも他(た)の声が吐き捨てる

「漸く、眼が覚めたのか」

幾つかの、声の主達は囲炉裏を囲み長座していた

「全く以て馬鹿馬鹿しい」
「巫女を娶る等、狂気の沙汰」

再び、横座に陣取る声が報告する

「だが、戻って来る気配がしない」

其の報告に喧喧となる空気の中、一同が口口に言う

「例の社は確か、り狐(こ)の社」

「其の通り」

「みや狐が受け継いだ」

「では」

「皆迄、言うな」

「だが」

そして一旦、押し黙る

此の場にいる、誰も彼もが
同様の恐れを抱き、拭い去れない不安を感じていた

軈て、耐え切れぬ声が横座の主に問う

「り狐は」
「り狐は放って置いていいのか?」

大分、濁る眼を細める
横座の主が其の口元を微笑むように歯茎を剥いた

「構わない」
「り狐は二度と社に戻る事はない」

喩え、戻りたくとも

そうして咽喉を唸らせる

「問題は、みや狐だ」

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫