狐鬼 第一章
何棟か連なる、病棟の一つ
其の屋上の扉を開け広げる、彼が悪態を吐く
「馬路、徒歩って怠い」
姿無き黒煙を失った今、移動も儘ならない
「 運んで貰えば良かったじゃないかー 」
「 お宅 お気に入りの「影」にー 」
揶揄い半分、提案するも
一番、手っ取り早いのは覚醒する事なんだかな
そうして、げらげら笑い出す
額の第三眼目掛け、彼は無言で凸ぴんを連打する
突然のお仕置?に
堪らず悲鳴を上げる額の第三眼に彼が吐き捨てた
「喚くな、僕だって痛い」
其れと無く目尻を拭う彼に額の第三眼が訴える
「 じゃあ やるなよー 」
傍から見れば何だ彼んだ仲良し小好しに見える二人?、が
掛け合いながら横たわる巫女の元へと辿り着く
不意に目の前を掠めて行く
黒い破片を眼で追い掛けた彼が言葉を掛ける
「ご愁傷様」
額の第三眼も陽気に便乗した
「 安らかに眠れよー 」
そして案の定、高笑う
額の第三眼を余所に彼は其の足元に跪く
覗き込む巫女の顔を彼の手の甲が頬から顎に掛けて撫でる
微かに触れる、どす黒い液体に気が付いた彼が其の眉を顰めた
「本当、馬鹿」
吐き捨てる彼が指の腹で巫女の唇を拭う
「大丈夫」
「お前が巫女を傷付ける事等、絶対に無い」
白狐に宛てた、言葉通り
自分も其の言葉を実践するつもりでいたのに、とんだ誤算だ
取り敢えず巫女の腕を掴もうとした、其の時
自分の腕に触れる微かな感覚に彼は黒目勝ちの眼を見張る
何時しか額の第三眼が鼻歌う中、幼い声を聞き取る
「残念」
「約束したのは僕じゃない」
「君はもう此処にはいられないんだよ」
一人、会話を続ける彼を余所に額の第三眼は鼻歌を止める様子はない
気付かない訳ではないが
気付かない振りをするのも偶には必要だ
何より彼が、そう望んでいる
「ごめんね」
其れでも自分の腕を離れ
巫女の腕に縋り付く其れを否応無く引き剥がす
行き着く先は、闇だ
分かっていても自分には如何する事も出来ない
俯く横顔、其の咬筋が軋むも彼の声は何処迄も優しい
「ばいばい」
段段、「魔」が近付く
段段、「魔」が遠退く
何方が先だ?
自分にも分からない