狐鬼 第一章
実際、何が起きたのか
束の間、彼女には分からなかった
薄目で覗く、目の前で咳き込む幼女が
青白い煙を吐いたかと思えば、其の身体を小刻みに震わす
「 あ… あ があ… あ 」
唇から溢れ出る青白い煙が
仰け反り、身悶える小さな身体を伝う
そうして見遣る、幼女の胸部から突き出る鎌爪に彼女は息を呑む
何とか震える足で立ち上がる
幼女の拙い手が胸部を貫く鎌爪を抜こうとするも
今度は触れた手の平から青白い煙が流れる
「 やあ あ… ああ 」
苦悶の顔で踠く少女が踏ん張る身体を横に動かす
引き抜く事が出来ないならば
と、自分自身の肉体を切り裂き、鎌爪から逃れるしかない
其の間、鎌爪はぴくり、とも動かない
長い時間を掛けて、漸く解放された結果
胸部から絶えず流れ出る青白い煙を無心で掻き集めるも蹌踉めく
幼女が其のまま、彼女の真横に倒れた
開(ひら)けた彼女の目の前
今宵の月を背負う白狐の表情は窺えない
唯、見詰める佇立する、其の姿が滲む
傍らの小さな身体から出る青白い煙が軈て、尽きる
其れが意味する事は一つしかないのだろう
耳元で幼女の幼い声が聞こえた
「わん、ちゃ…、ん、ん」
思わず閉じた瞼から涙が溢れた