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狐鬼 第一章

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森は彼女を招くように奥へ奥へと案内する
不安に駆られ幾度か振り返るも其の度に後悔した

先程迄、進んで来た道は
背後に広がる闇に呑み込まれ既に後戻り出来ない雰囲気が漂う

行くしか無い

入口に引き返すのが無理なら一か八か、出口を目指そう
無理矢理、自分に言い聞かせ再び歩き出す

矢庭に森の中の闇が晴れた気がした
気のせいかと思うも仰ぐ頭上、木木の隙間から陽射しが漏れている

思わず足早に進む
抱え込む旅行用鞄が腕からすっぽ抜けそうになるが
構っている場合ではない

木木と木木の間隔が長くなり
軈て、彼女の身体は眩いばかりの光の中に飛び込む

其の光は森の終わりを告げていた

燦燦とする太陽との再会
温もり処か、じりじりと射す陽射しに引いた汗が一気に噴き出す

そうして案外、近くて遠い
丸で時代劇に出て来る武家屋敷の棟門のような
立派な門扉の存在に辛うじて安心する

足元に目を落とせば無造作ではあるが人道として整備されていた

「よいしょー、と」

抱えていた旅行用鞄を
思わず発した掛け声と共に下ろす

何気無く出たオバサン語に自分自身、気まずくなるも
気を取り直して背後掛けした肩掛け鞄を正面に手繰り寄せる
中から手鏡を取り出すと手櫛で髪型を整え始めた

媚茶色のボブヘアを丁寧に撫で付ける

「大丈夫、落ち着こう」

自分の言葉とは裏腹に
自分の鼓動が激しく打つ胸元を手の平で押さえる

ゆっくりと踏み出す足が若干、浮き立つ

自分でも分かってる
連絡も無しに突然、押し掛けるなんて非常識だ

だけど彼は珍しく携帯電話を持たない人だ
手渡し呉れた地図にも自宅の電話番号は記されていない

なら、諦めればいいのに諦めたくなかった

ちどりは如何、思うだろう
ちどりは多分、褒めてくれると思う

切っ掛けは彼女だ

二人で一つの地図を受け取った
自分の手元を覗き込む彼女が小悪魔的な微笑で彼に聞いた

「お泊り、おっけーなの?」

「そうだね、山奥だし近場に民宿もないしね」
「歓迎するよ」

「ふん~」

何の意図も無く答えた彼を余所に
彼女は意味有りげな含み笑いをして自分を見遣る
何が言いたいのかは直ぐに理解したけど其の時は相手にはしなかった

でも、其れがあったから自分は決意したんだ

彼との縁を切りたくなかった
喩え、友達のままだとしても切りたくなかった

「歓迎するよ」と言ってくれた彼の言葉を信じたかった

出来れば、ちどりにも一緒に来て欲しかったけど
期待の新人は部活動で忙しい身だ

だから自分も頑張るから、ちどりも部活動を頑張って欲しい
目指せ、高校総体出場!

何時の間にか目の前に迫る立派な門扉を仰ぐ

驚嘆するも取り合えず呼び鈴を探すが見当たらない
若しかしたら無いのかも知れない、という考えが頭を過ぎるが
横に無ければ、上か?
と見上げれば呼び鈴処か表札も無い
そうして何気無く、更に視線を上げた其処には

森に囲まれた底の抜けた、空

すずめは仰いだまま言葉を失う
終わりだと安堵した背後の森は屋敷を呑み込み、延延に続いている

此処は森の中だ

何故だが分からないが「怖い」と感じる
だが「怖い」と感じる事すら感じてはいけない
そんな言いようの無い怖気に彼女の唇が無意識に歪む

「たか」

蹌踉けるように門扉に凭れながらも叩く

「たか、開けて」

力の入らない腕で必死で叩く

ドンドドンドン、ドンドドドン

門扉を叩く音が木霊する

「たか」

如何にも出来ない息苦しさにすずめは其の場に蹲る
石畳に両手を突く、焦点の合わない視界に黒い斑点が広がる

「森と」
「森に」
「森が」

息も絶え絶え吐き捨てる
次の瞬間、彼女は意識を失い倒れた

背後の森が嘲笑うかの如く、騒めく

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫