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狐鬼 第一章

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「祭りの夜は災難でしたね」

結論として二、三日は様子見として入院する事になった
彼女に主治医が柔やかに話し掛ける

入院手続きの案内の為
看護師と共に母親が席を外した途端の出来事だ

「真逆、祭りの時の怪我ではないですよね?」

阿鼻叫喚渦巻く境内

其れこそ神狐様の荒れ狂う姿を前に
其の場から逃げる事を絶念したのも事実だ

「地獄絵図宛らでしたものね」

極めて無慈悲な状況だった、という意味合いで言葉に出したが
信仰に群がる自分達、信者を地獄に堕ちた亡者や罪人に喩えたなら
其れは其れで「言い得て妙だな」と、主治医は独り言ちる

此の世は地獄なのかも知れない

等と冗談交じりに笑う
主治医を前に返す言葉が浮かばない
彼女は外界の喧騒飛び込む窓辺へと視線を泳がせた

主治医は意外にも彼女の視線を追い掛ける

「真逆」

そうして意識が及ぶ

「真逆とは思いますが、いらっしゃるんですか?」

穏秘学好き看護師程ではないが
其の口調には隠し切れない好奇心を含んでいた

足を運んだ集会の夜
何故か神狐様の怒りを買った、中高生の男女

其の彼女が大怪我を負い白装束姿で倒れていたのだ

母親の手前
看護師を窘めたが想像するな、というのは無理な話しだ

「是非とも、お会いしたいのですが」

ラウンド型、黒縁眼鏡の奥で
柔和そうな目を細めるが実の所、其処に白狐の姿はない

寝台の足元
獣の姿で寛ぐ白狐が牙を剥いて欠伸を噛ます

「俺は会いたくない」

吐き捨てる白狐は彼女同様、昼寝をしていた様子で
厚みのある前足を突き出して伸びをする

寝台の半分以上を占拠した
熊並みの巨体を豪快に振り揺らすように彼女は思わず身を引く

現に幾つにも分かれ伸びる尻尾が
主治医の顔面やら猫背の身体やらをすり抜ける

身を引いた彼女にも其の伸びた髭が掠めた

何にしても不思議だ

見えていないのなら触れられないのも当然だが
見えているのに触れられないというのは便利なのか、不便なのか分からない

「ぶらついてくる」

寝台から飛び降りる白狐は病室の扉をすり抜け出て行ってしまった

露知らず暫し待機するも一向に其の兆候が現れない事に
主治医はラウンド型、黒縁眼鏡の片端を摘まみ上げ残念そうに微笑む

「無理ですかね」

其れでも諦めきれないのか
顔を突き出す主治医が延延と腰窓付近を凝視していたが
無情にも母親の帰還で時間切れとなった

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫