狐鬼 第一章
幾つもの稲光が走る中
真っ二つに割れた閃光弾が激しく、弾ける
瓦礫が音もなく吹っ飛ぶ
混沌の中、彼が辟易した口調で呟く
「益益、お前が分からないよ」
微動だにせず立つ
彼の前に、人化した身を屈めた白狐が開(はだ)かる
振り下ろした鎌爪が地面に食い込んでいた
何れ程の力で黒い閃光弾を裂いたのか
着流しの肩山から先
露になった白い肌からは鮮血が吹き出し、腕は痙攣していた
真面に食らっていたならば
彼女の亡骸は塵と化していたに違いない
其れ程迄、彼女に向けられる彼の敵意に白狐は首を捻る思いだ
地面に食い込んだ震える腕を
顔色一つ変えず、もう一方の腕で押さえる
此処でお前が退かなければ
自分達は仕舞いだ
だが、仕舞いにする覚悟がお前にはあるのか?
彼を見詰める、翡翠色の眼が其れは其れは妖しく輝く
其の眼を受けて彼が愉快そうに微笑む
誘われているのか、何なのか
「お前が其処迄、すずめに拘る理由は分からないけど」
阿煙の事がある
此れ以上、邪魔されたら神狐諸共始末しかねない
其れは避けたいな
一撃の最中
少女の身を庇うよう、呼び寄せた吽煙を振り返ると顎で促す
「僕は一先ず退散だ」
そうして腕を取る、少女を抱き抱えると黒煙に身を委ねる
荒廃した屋敷に風が吹き抜けたと同時に
消えた