狐鬼 第一章
額の第三眼が薄っすら開く
どす黒く充血した眼球がぎょろりぎょろり、彼女の姿を捉えた
「 人使いが荒いぜー ったく 」
不平を零す、額の第三眼が瞬きを繰り返す
差し当たり発射準備が必要な程の痛手だったのだろう
僅かな猶予だ
壁に凭れる彼女は切に願う
「彼女を連れて逃げて」
彼も額の第三眼も自分にしか注視していない
今なら白狐の神業的速さで可能だろう、と彼女は思う
現に彼の足は一歩、又一歩
巫女の元を離れ、上座に陣取る自分へと向かって来ていた
彼越しに覗く、白狐を見詰める
何故だろう
翡翠色の眼が無下に自分を射抜く
怒っている?
怒っているの?
でもね
此れから如何やって生きていけば良いのか、分からない
彼のいない世界で如何やって生きていけば良いのか、分からないの
答えを教えて欲しい
其れでも「生きろ」と言うのなら答えを教えて欲しいの
悠然と構える白狐に自分の思いが伝わったのかは分からない
分からないが其の意図を汲み取ってくれた、と思いたい
そうして、ゆっくりと目を伏せる彼女が自嘲の笑みを零す
そうだ
たかの言う通りだ
私は自分が可哀相で仕方がないだけなんだ
足を止めた彼が
額の第三眼が甲声と共に黒い閃光弾を発射する
瞬間、貫くような突風を受け
壁に減り込む彼女が必死に歯を食い縛る
全ては運命で
全ては役割である
時が満ちれば
全てが運命で
全てが役割になる