狐鬼 第一章
漸く、満足したのか
軽く咳払いをする彼が白狐に向き直る
「冗談でしょう?」
「僕がお前等に何を願うの?」
「叶える手段等、幾らでも持ってる」
では一体、何故?
考えるだけ無駄だ
答えを知っているのは眼下の、彼のみだ
「僕の知っている神狐は居丈高の、下らない奴だった」
其れ以上は語る気はないのか
白狐を仰ぎ見る彼がやんちゃそうな笑顔を浮かべる
「狐の癖に人間の女と恋に堕ちるなんて、あは」
「保守主義の御偉方が黙ってないよ」
未だ興奮状態なのか
血走った眼が白狐を見据えたまま、其の唇を歪めた
「けど、平気だろう?!」
「お前は巫女を見捨てたりはしないだろう?!」
彼の言葉に少女に視線を泳がす白狐に
「あの狐のように」とでも言いたげに彼が声を張り上げる
「愛しい巫女を闇に置き去りにするつもりかあ?!」
虚空を見詰める少女に顔を向けたまま白狐が笑うように牙を剥く
「憶えておけ、其れが神狐というモノだ」
其のまま仰け反る白狐の身体が瓦礫の上に着地するや否や
額の第三眼が黒い閃光弾を発射する
白狐は紙一重、身を躱すと漆黒の森へと突っ込む
次いで後を追う黒煙、彼が座敷を後にする
「生け捕りだよ」
額の第三眼が閃光弾を乱射しながら下品な笑声を上げた
其の声が木霊する森の中、縦横無尽に逃げる白い影は思惟する
何方道、死ぬ
ならば相打ち覚悟で三眼と戦うのが、一つの道だ
少女を巻き添えにしない
引き合いが及ばない森の中で決着をつける、が其れは分が悪い道だ