狐鬼 第一章
そんな白狐と額の第三眼の会話
と、いうより額の第三眼の話しを壁一枚隔てた屋外で窺う人物がいた
すずめ、だ
唯一、残された上座の壁
其の裏で震える膝を抱えて、息を潜める
白狐と別れた、あの後
自分は大人しく帰るつもり等、更更なかった
白狐は言った
道案内が済めば社に戻り、休むがいい
生憎、屍(白狐曰く)だらけの屋敷に寝泊りする気にはなれないが
其の気遣いが嬉しかった
境内に旅行用鞄も置きっぱなしだしね
そうして彼から譲り受けた、硝子風鈴
若しかしたら、あの硝子風鈴が招待状代わりになったのかも
と至り、思わず額を手の平で叩く
迷う事無く案内出来たかも知れない
全てを終わりにする
そう意気込んで道案内した結果の、為体
何処の恋愛小説の主人公だ?
そんな覚悟、簡単に持とうが
そんな覚悟、簡単に捨てられるんだって思い知った
其れでも素直に引き返す気になれなかったのは
此のままは嫌だったからだ
思えば容易く、押し退けられた鎌爪
迫真の演技、か如何かは知らないが
其れこそ脅せば素直に従ってくれると思ったのではないか
エコ仕様の火の玉にしても
実際、触れた所で何の問題もなかったのかも知れない
今なら、そう思えるのだ
だから自分を助けてくれた、其の礼をしたいのだ
ゆっくりと前髪を掻き上げる彼女が溜息を零す
むざむざ死にに来たようなものだ
醜い本心を晒すなら
彼の側にいられる少女が羨ましくて
だが、少女は其れを望んでいない
とは言え此処で自分が出来る事等、思い付かない
行き当たりばったり
高が人間の自分が此の場にいる事自体、場違いだ
彼は人間じゃない
白狐は人間じゃない
少女は、特別な人間だ
抱える膝に顔を埋める彼女が湿っぽく笑う
矢張り少女が羨ましい、という感情は否めない