狐鬼 第一章
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「願い事の無効」
だが、問題は別にある
白狐は分かっていながらも
自分自身、納得する為にも声に出して言う
「馬鹿な」
「神狐が魔の願い事を叶える訳がない」
其の言葉に吹き出す彼が身体を仰け反り、笑う
到底、彼らしくない甲高い引き笑いが廃墟の屋敷に響き渡る
「お前の言う通り」
「馬鹿、な願い事だったよ」
「全ては上手く終わる筈だったのに」
「全く、女って奴は侮れない」
笑い声を残す彼が徐に項垂れた
「あの狐」
「あの狐だけは絶対に許さない」
ゆっくりと頭を抱えるや否や
掻き上げる頭髪を勢い良く、引っ張る
「絶対」
千切れた髪の毛が彼の足元に落ちていく
「絶対、絶対、絶対、絶対!」
そうして繰り返す、引っこ抜くという行為
此のままでは禿げるのでは、と心配する白狐同様
子どものように地団駄を踏み出した彼に姿なき声が呼び止める
「 狐鬼 」
嗄れた、高い声に反応したのか
瞬きする彼が其の手の平に絡まる毛髪を見詰めて、微笑む
筋肉だけで笑う顔が明らかに引き攣っていた
再び、夜空を仰ぐ彼が雄叫びのような笑い声を上げる
又もや付き合う羽目になった白狐に額の第三眼が半眼で弁解した
「 わりーね こーなっちまうと如何にも止まらねー 」
彼が仰け反っている為
白狐には額の第三眼の声しか聞こえない
「 何百年も生きてるとややこしーのよ ほんとー 」
そうして笑う額の第三眼の声と彼の声が重なる
成る程
笑い方が同じだ
似ても似つかない、二人の共通点を発見した白狐に
良い機会だと思ったのか、額の第三眼の眼球がぐるりと回転する
「 あ 此れねー 」
「 狐鬼に仕える 魔ねー 」
言うなれば直属の部下だ
故に他の鬼も魔も、彼に近付く事は出来ない
彼の背後に控える黒煙を指しているのか、額の第三眼が続ける
「 初見でしょう? 」
誰も彼も、狐鬼の存在を真しやかに捉えていた筈だ
将又、嘘から出た実だろうか
何方でも構わない
兎に角、巫女も神狐も信じていなかった筈だ
埋め合わせる情報を与えるのも一興
「 此方が阿煙(あえん)ねー 」
「 彼方が吽煙(うんえん)ねー 」
「 面白いねー 」
「 魔にも始まりと終わりがあるんだねー 」
否、魔にこそ当て嵌まるのかも知れない
揚揚と語る額の第三眼を余所に大人しく聞いていた白狐が吐き捨てる
「すまんが区別が付かない」
至極尤もだ
ゆらゆら漂う黒煙が一対所か、名前があるとも思わない
「 だよねー うけけ 」