狐鬼 第一章
全ては御伽話
全ては半信半疑
少女にとっては母親の語る、御伽話
白狐にとっては老神狐達が語る、昔話に他ならない
そうして微動だにしない白狐と彼
其の沈黙に耐え切れなくなったのか、額の第三眼が声を上げた
「 なんだなんだー 」
「 俺が そんなに珍しいかー? 」
白狐が舌打ちする代わりに牙を剥く
大人しく半眼になる、額の第三眼を気にもせず彼が否定する
「杞憂だよ、其れは」
彼の正体を知った今、白狐の考えを占めているのは
巫女は其の魔を受け入れたのか、という事
其の事に察した彼が答える
「お前の巫女だ」
「そう簡単には魔にはならないよ」
「彼女には、もっと大きな隙間が必要みたいだ」
事、人間に関しては「触れればいい」という話ではない
隙魔を受け入れる、心の隙間が必要になる
人形にはなるが
操り人形にはならない
一時の激情に駆られ魔が差したが、其れだけの話だ
「巫女としての自覚なのかな?」
決して褒め言葉ではない
「人間としても厄介だよね」
受け入れた隙魔も軈て、消え失せてしまうだろう
其の時、少女は家族の死も
家族同然の死も如何やって受け入れるのか
其れは其れで見物だ
そんな彼の思考が読み取れる
額の第三眼は「ヤレヤレ」と其の眼を閉じた
何とも言い難い笑みを浮かべる彼が白狐に告白する
「僕はお前が欲しい」
其の言葉に翡翠色の眼が返す
ならば、巫女と引き換えだ
彼は微笑むが首を縦に振る事はない
「お前だけでは無意味なんだよ」
「巫女と神狐が揃っていなければ無意味なんだよ」
伊達や酔狂で神の使いを魔の使いにしたい訳じゃない
二つの命の珠が
一つになる程、愛し合っている巫女と神狐
「僕は待っていた」
「お前のように道を外れる神狐が再び、現れるのを待っていた」
「ずっと」
白狐は眼下の彼を食い入るように見詰める
其の「二つの命の珠」で出来る事は白狐が知る限り、一つしかなかった