狐鬼 第一章
黒目勝ちの眼を伏せる彼が溜息交じりに零す
「もう、バレたじゃないか」
「 わりーわりー 」
其の眼球をギョロギョロ泳がせる
「うけうけ」笑って誤魔化す、額の第三眼が謝った
不思議だ
眼球だけの存在が、如何やって言葉を声にしているのか
彼の口を借りて?
其れとも、眼球自体が?
等と不謹慎にも思う、白狐を余所に二人の会話は続く
彼のゆったりとした
落ち着いた声とは似ても似つかない
甲高く、濁る声がお道化た調子で弁明する
「 遅かれ早かれ バレるってー 」
「 現に あの巫女さんは知ってたしよー 」
「 お宅の正体 」
此処にきて漸く
少女の制止を理解した白狐が、其の姿を探す
先程、巻き起こした旋風を受け
身を庇う術無く、四肢を投げ出し横たわる少女を彼が抱き寄せる
当然の結果に考えが及ばない筈等ないのに
頭に血が上り、軽率な事を仕出かした
思わず身を乗り出す白狐に彼がゆっくりと頭を振る
「大丈夫」
「お前が巫女を傷付ける事等、絶対に無い」
彼の言葉通り少女は無傷だ
寝間着に振り掛かる、砂利を払い少女の身なりを整える
彼に白狐は図らずも感謝した
幸い、原形を留めている上座の壁に
少女の身体を凭れさせた彼が、其の顎を掴む
虚ろな目を白狐に向け、其の姿を映すも目の奥に光が宿る事はない
「そうだね」
「君は、必死に白狐を止めたね」
立ち上がる彼が梁の上の白狐を、仰ぐ
「僕は全ての魔を統べる、鬼」
「此の手で触れれば神狐さえも統べる事の出来る、鬼」
やんちゃそうな笑顔で笑う彼が掲げる手の平を白狐に差し出す