狐鬼 第一章
眼の前の襖が開く
其の次の襖も、次の襖も、次の襖も開く
幾数枚の襖が手前から奥へ
順番に開いていく様子を白狐は行儀良く「お座り」をして待つ
不本意ながら、心が躍る
襖の仕掛けに、むずむずし出す尻尾を何とか抑えるも
幾つもあると制御が難しいのか
一、二本がぱた付く
最後らしき襖が開いた瞬間、上座に陣取る彼と眼線が搗ち合う
「随分と待ち草臥れた」
傍らに座す少女を見遣り、微笑む
「思わず二人の愛を疑ってしまったよ」
途端、何処からとも無く揶揄う笑声が響く
眉根を顰める白狐が少女を見詰める
迫り上がる、遥か先
身構える白狐の、幾つにも分かれ伸びる尻尾の先が壁や天井に食い込む
大口を開けるや否や、咽喉を震わせ周囲の空気を吸い上げ始める
肋(あばら)骨が蛇腹の如く波打ち、其の腹と背中がくっ付く勢いで凹む
軈て赤みを帯びた、翡翠色の眼を細める白狐が歯茎を剥く
「此処は、窮屈だ」
其の咽喉が咆哮する
巻き起こす旋風が大蛇の如く、畳の上を這う
膨張する、其の腹が壁を押し広げ天井を押し上げ、破壊して弾ける
粉塵舞い上がり、顔を背けた彼が
下座に視線を戻すも其処に白狐の姿はない
瓦礫と化す視界の中、額の第三眼が其の姿を捉えた
「 上だ 狐鬼! 」
見上げる、頭上
天井が吹き飛んだ其処には煌煌と浮かぶ、月が覗く
其の光の中、白毛を靡かせる白狐の姿があった
今正に彼目掛け、急降下している
途端、身体を回転させる白狐が
辛うじて所所、留めている屋敷の梁にしなやかに着地する
そうして前のめりに彼を見下ろす
白狐が其の身を捩じり雄叫びを上げた