狐鬼 第一章
何処迄も続く、自分の声が
何処迄も続く、蝉時雨に変わる
白狐の胸元から身体を起こす
彼女が漸く、解かれた腕で乾いた涙を拭う
「分かりました」
「彼の屋敷に、案内します」
当然だが、選択肢はない
白狐から逃げ切れなかった自分の負けなんだ
大人しく従うしかない
其れでも多少、訝しがる白狐だったが
心変わりされても厄介と踏んだのか、早早に行動に移す
そうして彼女を脇に退け、立ち上がる白狐が青白い腕を差し伸べた
「案内しろ」
其の腕に縋り付けば楽なのだろうが
彼女は小さく首を振って、自力で立ち上がる
白狐の、其の翡翠色の眼を見詰めるも
決して覗き込まない
覗いたら最後、魅入られる
「其れでお仕舞い」
小さく呟く彼女に白狐が頷く
彼の事も
白狐の事も終わりにするんだ