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狐鬼 第一章

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足音の主が姿を現すであろう
障子の向こうを食い入るように見詰めるも

有ろう事か
足音の主は影すらなく現れた

藍白色の着流しの裾から伸びる、素足の白さ
腰迄ある白髪を靡かせ、向いた顔の人間離れした端正さ

そうして氷の塊を素手で抱えた
何処と無く稚い表情の少年が其の場に立ち止まる

翡翠色の眼が彼女の、藍媚茶色の目と合う

何て、白さだ

唯一、色があるのは
翡翠色の眼と薄紅色の唇のみだ

少年の風貌に思わず息を呑む彼女だったが
見詰める眼が泳いだのを切っ掛けに
今の今迄、泣いていた自分に気が付き毛布の中へと引っ込む

「おい」

躊躇うも声を掛ける少年に彼女が弾かれたように叫ぶ

「ごめんなさい!」

助けてくれた事も
其の後、看病してくれた事も感謝している

「でも」
「でも」

「見ないでください!」

泣き顔等、見られたくない
そんな我儘を言う自分を許して欲しい

彼女が起きていた事にも
彼女が泣いていた事にも驚いたが、更に叫ばれて
動揺した少年は手に抱えていた氷を遠く、洗面器に放る

投入に成功するも当然の事ながら、洗面器の水は盛大に飛び散り
薄い毛布を被る、彼女の上に降り注ぐ

「冷た、」

思わず声を発する彼女に少年が慌てて、謝る

「す、すまん!」

何か拭く物は?!
と、探すように左右に顔を振るが此処にはないと考え至ったのか
来た道を戻る為、回れ右をする

そうして外縁に出た瞬間、豪快にすっ転がる
轟音と共に「痛あ!」と、上げる少年の声が彼女の耳に届く

気になるのか
毛布の隙間から覗き見る

肘を突いたまま蹲る少年が
濡れている床を忌忌しげに見遣りながら悪態を吐くも
外縁に点点と続く、水溜りに数分前の自分の行動を思い浮かべた

洗面器の氷がゆらゆら、揺れる

言葉もなく項垂れる少年の様子に
余程、痛かったのだろうと勘違いした彼女が毛布越しに声を掛けた

「大丈夫?、ですか?」

顔も上げず、頷く少年が答える

「案ずるな」
「拭く物を探してくる、待っていろ」

「はい」

返すも尚も立ち上がる気配のない少年を気遣い、付け足す

「…でも、お構いなく」

作品名:狐鬼 第一章 作家名:七星瓢虫