狐鬼 第一章
少年が消えた空間をじっと凝視しつつ、白狐は思う
祭りの時も
そして今も少女は自分を制止した
何故?
当然乍ら、待てど暮らせど受答する巫女の声はなく
のそりと橋の欄干から床板へと降り立つ
遣る瀬無く項垂れた、其処には着流しの衿にしがみ付く
何時の間にか気を失っている、彼女がいた
白狐は眉根を顰め自問自答する
何故、俺は此の娘を助けたのだろうか
答えは簡単だ
だが、何故?
翡翠色の眼が彼女の顔を眺める
巫女でもない
此の娘に何の関心もないのに、何故?
途端、其の牙を剥き出し歯軋りする
祭りの時に向けられた、少年の先制を甘く見た
甘く見た結果、此の態だ
鈍い音を立てる牙が圧し折れる前に歯軋りを解く
そうして歪める唇を尖らせる
「何故、怒る?」
「何故、拒む?」
白狐の呟きは白髪を撫でる
夜風に乗るも巫女の元に届く訳もなく、夜の静寂(しじま)に溶けていく