狐鬼 第一章
凡そ現実とは思えない光景を
日本庭園を臨む、生け垣の隙間から窺う彼女は当然の如く固まる
闇のような黒煙を纏い、微笑んでいる少年は紛れもなく「たか」だ
だが彼の額に存在しているモノが到底、信じられずにいる
あれが嗄れた声の正体なのか
彼女は無意識に頭を振る
自分の知っている彼は
教室の喧騒を余所に射し込む日溜まりの中、読書に耽る彼だ
喩え、黒闇の中の彼が本当の彼だとしても直ぐには呑み込めない
喉元が閊える感覚に手の平を当て、瞼を閉じる
無理に呼吸する胸が苦しくて堪らない
「 娘 」
「 娘 何をしている? 」
突如、背後から響く嗄れた声
「 離れ屋の 」
「 離れ屋の娘 」
身震いする身体が総毛立つ
振り返るよりも其の場から逃げる為、彼女は生け垣から飛び出す
転がり、勢い良く地面に伏せる
其の姿を見留め、小首を傾げる彼が彼女の名前を呼ぶ
「す、ずめ?」
ぎこちなく顔を上げる
彼女に彼が何時も通りの笑顔を向ける
思わず、起き上がる彼女は彼に駆け寄ろうとする
彼の其の額に蠢く不気味な眼球の存在等、忘れたかのように
直後、閃光が瞬く