狐鬼 第一章
7
「君は僕のモノ」
「其の運命も其の命も、ね」
虚ろな目で座り込む
少女の頬を撫で首筋に掛かる黒紅色の髪を掻き上げる
其の白い項に目を細めながら、囁く
「でも、白狐のお前は抗うのかな?」
立ち上がる少年が外縁から庭園へと降り立つ
仰ぐ、月よりも眩い光の玉を見詰める
其れなら其れで構わない
夜空を劈くような咆哮の後
「白狐」と呼ばれた、光の玉が標的目掛け急降下する
其の状況に結果を確信した少年が微笑む
大気を巻き込み、発火する勢いで閃く光が
闇に覆われる少女の視界を一瞬だけ、鮮明にする
其の目に飛び込んで来た、少年の微笑み
少女は其の意味を知っている
「みや狐!」
少女の叫びに動揺したのか
光の玉が左右に揺れる
止(とど)まるには距離も時間も足りない
光の玉は畝りながら少年の鼻先を掠め
地面を蛇行するように這った後、跳ねる勢いで上空に反り返る
ぱらり、と其の肩に髪の毛が舞った
「ちぇ」
態とらしく吐く、舌打ちだった
「此れだから女は侮れない」
溜息交じりに笑う少年が上空の、光の玉を見上げる
「如何する?」
「此のまま睨めっこじゃあ、巫女を取り戻せないだろう?」
光の玉は少女の制止に戸惑うも威嚇を止めない
其の咽喉が雷の如く、音を立てる
そんな臨戦態勢に少年は優しく、笑い掛けながら話す
「心配しないで」
「二人を引き離すなんて野暮な事、僕はするつもりはないよ」
少年の背後を
ゆっくりと漆黒の闇が塗り潰していく
「信者達の客寄せ熊猫?」
甘んじている理由は当の狐にしか分からないだろうが
「お前には、もっと意義深い使い道があるんだ」